サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マイネイサベル

【2013年 中山牝馬ステークス】波乱を巻き起こす気高き女王

 2歳7月、新潟の芝1400mでデビュー勝ちを飾ったマイネイサベル。6番人気(単勝17・7倍)に甘んじていたが、厳しいペースを追走し、早めに手が動きながら、渋太く脚を伸ばした。

 新潟2歳Sも9番人気(単勝26・3倍)の低評価だったが、抜群の勝負根性を発揮する。3コーナーで中団の馬群に吸収されたうえ、他馬に寄られてバランスを崩しながらも懸命に前進。速い上がりにも対応し、きっちりと差し切りを決めた。

 父はトニービンの後継であり、NHKマイルCで3歳マイル王に輝いたテレグノシス。古馬になってもG2を2勝、仏G1・ジャック・ル・マロワ賞でも3着するなど、息長く走った。母マイネレジーナ (その父サンデーサイレンス) は1勝したのみとはいえ、函館3歳SやクイーンSを2着している。その半弟にメガスターダム(ラジオたんぱ杯2歳S、中京記念、菊花賞3着)。大物を送り出す下地は十分にあった。

 ファンタジーSは、コースロスが響いて9着。阪神JFも6着に終わった。クイーンCで2着して、実力を再認識させたものの、フラワーC(4着)、フローラS(5着)、オークス(6着)と、不完全燃焼が続く。

 ローズSを2着し、期待が高まった秋華賞だったが、15着に大敗してしまう。福島記念(3着)以降は堅実に掲示板を確保。ヴィクトリアマイルも6着まで差を詰める。

 関屋記念を4着しながら、新潟記念で17着に敗退し、府中牝馬Sでは単勝31・8倍まで人気を落としていた。ところが、秘めた闘争心に衰えはなかった。新潟2歳Sを思い起させるような豪快な末脚が炸裂。痛快な逆転劇で2つ目のタイトルを奪取する。

 エリザベス女王杯(7着)後にリフレッシュを挟み、中山牝馬Sより再スタート。前半の4ハロンが49秒6で流れたスローペースだったが、あせらず後方で脚を温存する。中盤より一気に流れが速くなっても、楽々と対応。レースの上がりを1秒0も凌ぐ圧倒的な末脚を爆発させた。ここでも6番人気(単勝12・7倍)を覆す。会心の勝利に、松岡正海騎手は満面の笑みを浮かべた。

「56キロのハンデが課せられ、厳しい条件でしたが、久々でも理想的なスタイル。返し馬でも手先が軽く、本調子で臨めたと思います。思った通りの展開に。うまく脚がためられ、スムーズに立ち回れましたよ。G1でも大きく負けていないように、随所で能力を見せてきた実力派。バランスの良い走りをしますし、まだまだ奥があります」

 福島牝馬S(2着)を経て、ヴィクトリアマイルを3着、安田記念でも4着に健闘した。5歳時の府中牝馬Sは4着。マイルCS(15着)、愛知杯(9着)まで戦績を重ねたうえ、繁殖入りした。

 常にトップクラスを相手に、たくましく戦い抜いたマイネイサベル。母としては活躍馬を送り出せず、2022年に天国へ旅立った。気高き魂を称えるとともに、冥福を祈りたい。