サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マジックタイム
【2016年 ダービー卿チャレンジトロフィー】マジックガールが演じた巧妙な脱出劇
2歳7月に迎えた福島の新馬(芝1800m)は2着だったものの、後方から目を見張る末脚を駆使したマジックタイム。しばらくは出遅れるのが常だったが、新潟の芝1600mを順当に差し切った。レースのラスト3ハロンを1秒7も凌ぐ瞬発力を発揮している。きんもくせい特別も抜群の決め手で連勝。阪神JF(6着)にも駒を進めた。
「当初より非凡な能力を感じていました。ただし、真面目すぎる気性が空回り。そんななかでも、最後まであきらめず、懸命に追い込んできます。間隔を開けながら、大切に使ってきましたし、脚元のトラブルとは無縁。この父らしく、豊富な成長力を見込んでいましたよ」
と、中川公成調教師は若駒当時を振り返る。
有馬記念やドバイシーマクラシックを制したハーツクライの産駒。母タイムウィルテル(その父ブライアンズタイム)はフローラSを2着した実績を誇る。ゲシュタルト(京都新聞杯)、クリスザブレイヴ(富士S)などが近親に名を連ねる優秀な血筋である。
クイーンCを2着して、クラシックへと夢がふくらんだが、フローラS(6着)、オークス(13着)と足踏み。秋風S(クビ差の2着)、ユートピアS(6着)も期待を裏切った。晩春Sで2着しながら、翌春の3戦も不完全燃焼に終わる。
「勝負のタイミングは先と見て、4歳夏に長めのリフレッシュを図ったのが功を奏しましたね。精神的にひと皮むけ、ぐっと落ち着きを増しました。ゲートが改善され、馬込みも平気になったんです。レースが迫っても加減せず、きちんと負荷をかけられるように。体力面の充実も明らかでしたよ」
東京の1000万下を楽勝したうえ、ユートピアSもアタマ差の2着。節分Sに勝ち、京都牝馬Sもクビ差の2着に健闘する。
そして、ダービー卿CTでは、ついに重賞の勲章に手が届いた。道中はじっくりと中団で脚をためていたが、スローペースで流れ、馬群が凝縮したタイトな攻防。それでも、直線でぽっかり前が開くと、鋭くインを突き抜けた。みごとに持ち味を引き出しのは、アンドレアシュ・シュタルケ騎手。こう満足げに笑みを浮かべた。
「あまり後ろのポジションでは届かないと思い、前半で気合いを入れたとはいえ、終始、手応えは楽。馬はリラックスしていて、初の騎乗でも乗りやすかったです。馬場の内目は荒れていたけれど、苦にしなかった。いつもは54キロ以上で騎乗していますので、ハンデが53キロと発表され、乗れるか心配しましたが、がんばって減量した甲斐がありましたよ」
ヴィクトリアマイル(6着)、関屋記念(3着)、府中牝馬S(2着)、マイルCS(8着)でも、堅実に差を詰めている。2つ目のタイトル奪取がかなったのがターコイズS。後方の位置取りから抜群の瞬発力を駆使。ラスト1ハロンで先頭へ踊り出ると、1馬身半の決定的な差を付けた。
ラストランとなった中山牝馬Sもクビ差の2着に食い下がり、多くの拍手に送られて引退したマジックタイム。母となっても、エターナルタイム(5勝、シルクロードS3着)を送り出し、評価を高めた。卓越した身体能力や勝負根性を受け継いだ大物の登場が待ち遠しい。