サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アンバルブライベン

【2015年 シルクロードステークス】外連味のない先行策で勝負した気丈な頑張り屋

 スプリント路線で才能を開花させたアンバルブライベン。ただし、父はヨーロッパの長距離系であり、英セントレジャーを逃げ切ったルールオブローである。JRAの重賞ウイナーに輝いたのは同馬しかいない。母チェリーコウマン(その父スプレンディドモーメント)はウインターSをはじめ、5勝をマーク。高齢まで16頭を産んだなかの第14仔として誕生した。

「血統的な愛着は格別。アンバルブライベンの兄に昇竜Sを6馬身も突き放したマイマスターピース(3勝、兵庫CSを3着)がいて、大きな夢を見させてくれた。姉マイプラーナ(4勝)のスピードも忘れられない。あの仔を当歳で見たときは背ったれ(背中のラインがたるんだ体型)でトモも薄く、見栄えはしなかったね。でも、ジョッキー時代からそんな馬との相性も良かったし、不思議と走りそうな予感はあったんだ。フジワラファームでの乗り込みが進んでも、地味なままだったが、だんだん胴に伸びも出て、M字みたいなスタイルも目立たなくなったよ」
 と、管理した福島信晴調教師(2018年に引退)は若駒当時を振り返る。

 3歳1月、京都のダート1200mでデビュー。いきなりクビ差の2着に健闘する。続く同条件をあっさり勝ち上がった。

「追い切りでは思いのほかタイムが出たし、引っかかることもない。普段は素直で扱いやすいしね。ただ、実戦で砂を被ったりすると自らやめてしまい、以降の3戦で惨敗。それで、芝に目を向けたんだ」

 志摩特別(17着)も直線は後退する一方だったが、ステッキを入れて先手を奪った小郡特別で一変。単勝237・3倍の低評価を跳ね返し、驚きの逃走劇を演じた。しばらくは行けないともろく、成績は激しく上下動したものの、キャリアを積みながら体力が向上していく。4歳夏に筑紫特別、天草特別と連勝。5歳を迎え、山城Sでは準オープンを卒業した。

「オーシャンS(16着)では体調を崩してしまったが、リフレッシュ後にひと皮向け、心身の充実が目覚ましかった。オーバーペースだったセントウルS(12着)以外は崩れていないもの。決してハナは譲らないと主張し続けたことで、競りかけたら共倒れになると他のジョッキーも警戒してくれるように。自分のかたちに持ち込みやすくなった」

 前傾ラップを刻みながら、バーデンバーデンCを3着、北九州記念は4着。アイビスSD(8着)もコンマ3秒しか負けていない。福島民友Sでは鮮やかな逃げ切りが決まった。

 ついにタイトルに手が届いたのが京阪杯。押して先手を奪い、スローに落とすことに成功。ラストの決め手比べとなっても、渋太く脚を伸ばす。後続を後続をあっさり突き放し、栄光のゴールへと邁進した。

 淀短距離Sはあと一歩の2着。そして、シルクロードSで2つ目のタイトルに手が届く。早めに競りかけられ、決して流れに恵まれたわけではなかったが、待機勢の強襲を堂々と退けた。

「一段と心肺機能が高まり、終いの粘りが変わってきた。ようやく完成の域に入ってきた実感があったね。6歳になっても、まだまだ奥があると思わせたのに」

 自ら激流を演出した高松宮記念こそ15着に沈んだが、函館スプリントS(5着)では2番手でも踏ん張り、力の衰えなどうかがえなかった。ところが、放牧先で重度の疝痛を発症。志半ばで天国に旅立った。

 その名にふさわしく、努力を重ねながら強靭さを増したアンバルブライベン(ドイツ語でボールをキープする。転じてがんばること)。いつまでも忘れられない個性派である。