サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マコトナワラタナ
【2012年 葵ステークス】宝玉の才能を集約させた輝かしきゴール
スプリントの追い込みタイプとして存在感を示したマコトナワラタナ。常に一発の魅力にあふれ、そのキャラクターは多くのファンに愛された。名前もユニーク。ナワラタナとは、古代より伝わるスリランカのお守りのこと。ほどこされた9つの宝石が様々なエネルギーを集約するという。
「もともと小柄でしたし、普段は大人しい。どちらかといえば地味に映ります。ただ、当歳時より均整が取れたスタイル。とても皮膚が薄く、しなやかなのが自慢でしたよ。ノーザンファーム空港での育成はスムーズに進み、2歳10月、手元へやってきましたが、ゲート試験の合格後はいったん放牧へ。繊細な爪に急な負担をかけたくなかったんです。母は能力がありながら、蹄の弱さに泣かされました。子供にも特徴は伝わっていて、半兄のマコトポセイドン(地方1勝)も同様でしたからね」
と、鮫島一歩調教師は若駒当時を振り返る。
ワンカラット、エーシンヴァーゴウ、アイムユアーズなど、活躍馬に短距離向きの牝が多いファルブラヴが父。母マコトキンラン(その父サンデーサイレンス、地方2勝)も鮫島厩舎で走った。祖母は秋華賞を制したブゼンキャンドルである。
暮れの帰厩後は短期間で態勢が整い、1月に小倉の芝1200mでデビュー。出遅れが響き、4着に終わったものの、大外をぐんぐん伸びた。2月の同条件を順当に勝利する。
「ゲートを出すぎ、終始、力んでいましたよ。調教でも瞬時にスイッチが入るので、何人もの乗り手が落とされています。そんな危うさの克服が課題。ただし、勝負根性は想像以上でしたね。かかりながらも懸命に脚を伸ばすあたりがすばらしい」
直線勝負に徹し、フィリーズレビューを8着。阪神の芝1200m)でも急がせずに待機したところ、他を圧倒する切れを発揮した。悠々と差し切り、2着に3馬身差を付ける。流れに乗れなかった橘S(5着)にしても、先頭とはコンマ3秒差でゴールしていた。
丁寧に磨きがかけられ、葵Sでも一流の輝きを放つ。一気に末脚を爆発させ、あっという間に差し切りを決めた。
「だんだんレース慣れし、折り合い面が改善されてきました。軽い芝での瞬発力比べとなれば、生まれ持った身のこなしの鋭さで勝負できます。力の要る坂路で動けなかったように、まだまだ非力でしたので、これで中身がしっかりしてくればと夢がふくらみましたよ」
しかし、どうしても展開に左右される。3歳秋にオパールSを3着に食い下がったものの、無念の8連敗を喫する。それでも、翌春に鞍馬Sで2つ目のオープン勝ちを果たした。
降級後は4回も2着がありながら、5歳11月になって、ようやく醍醐Sを突破する。以降も歯がゆい競馬が続いたが、引退レースとなったオパールSは、高松宮記念を制するビッグアーサーの2着に健闘。惜しまれつつターフを去った。
繁殖としても大きな期待を寄せられながら、10歳の若さで天国へ旅立ったマコトナワラタナ。それでも、懸命に命を燃やして駆け抜けた珠玉のゴールは、いつまでも目に焼き付いて離れない。