サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マーティンボロ

【2014年 中日新聞杯】実験的な試みがもたらした奥深いインパクト

 3歳の3月、阪神の芝1600m(4着)でデビューしたマーティンボロ。折り合いを欠いたり、外へふくれたりする幼さに邪魔されながらも、6戦目となる小倉の芝2000mで初勝利を収めた。

「極端な遅生まれ(8月20日生まれ)のハンデは大きかったと思いますよ。日本とは出産シーズンが半年ずれるオーストラリアへの輸出を想定し、実験的な試みとして秋に種付けされた一頭なんです。ただ、検疫の問題(馬インフルエンザの発生に伴い、当時は移動が制限されていた)で出国できず、手元に来ることとなりました」
 と、友道康夫調教師は依頼を受けた経緯を説明してくれる。

 父はトップサイアーのディープインパクト。母ハルーワソング(その父ヌレエフ)は未出走だが、その半妹にG1・ヴェルメイユ賞を制したメゾソプラノがいる。シングスピール、ラーイらの名種牡馬を産んだ曽祖母グローリアスソングに連なる名牝系。友道厩舎ゆかり血筋であり、同馬の姉兄にハルーワスウィート(5勝、ヴィルシーナ、シュヴァルグラン、ヴィブロスの母)、フレールジャック(ラジオNIKKEI賞など4勝)がいる。

「フレールジャックは母に似て気性が激しく、出走も5月の未勝利まで待つ必要があったのに、この仔は幼少時を暖かい気候のなかで過ごしたせいか、ハルーワスウィートの産駒たちと同様、性格が穏やか。ノーザンファーム空港で順調に乗り込まれ、思ったより早く入厩できました。それでも、若駒当時は小柄な外見どおり、パワーが不足。阪神の坂は堪えました。だから、平坦コースに良績が集中しています。京都でもパンパンの良が理想でした」

 2勝目は4歳3月の小倉(芝2000m)。7月の同条件を差し切ると、渋った馬場も克服して1000万クラスを4着、3着と前進する。11月の京都、芝2000mを勝ち上がり、寿Sも3着まで追い込む。飛鳥Sはクビ差の辛勝だったとはいえ、かなり外目を回りながらも計ったように捕える好内容だった。

 すっかり勢いに乗り、中日新聞杯に駒を進める。ダリオ・バルジュー騎手は中団で折り合いに専念。ペースはスローだったが、直線で発揮した瞬発力は目を見張るものがあった。大外からぐいと伸び、3頭が横並びとなる接戦を制した。10番人気(単勝30・7倍)の低評価に甘んじていたうえ、18戦目でつかんだ初のタイトルだったものの、2着がラキシス、3着もラブリーディと、後にG1まで駆け上った実力馬を撃破しただけに、価値あるパフォーマンスといえた。

「ディープ産駒らしく、決め手で勝負できるように。力が要るウッドコースでも、すいすい動けるようになり、ぐんと中身が充実しました。すっかりレースを覚え、操縦性も向上。メンタルにたくましさを増し、いよいよピークの域に達した実感がありましたね」

 生憎の雨に見舞われながら、小倉記念でも後方から鋭く伸びて2着を確保する。新潟記念は直線で前が壁になり、進路を切り替える不利。それでも、狭い馬群を一気に突き抜けた。他馬を妨害したとして、騎乗したナッシュ・ローウィラー騎手は騎乗停止の制裁を受け、すっきりした決着とはいえなかったものの、強さは際立っていた。

 しかし、天皇賞・秋(13着)を走り終えると、脚元の疲れにより1年近くのブランク。7歳時の小倉記念で5着に浮上したが、福島記念(7着)がラストランとなった。

 引退後はフランスに渡り、種牡馬となったマーティンボロ。2025年よりアイルランドにて供用されている。ワインの生産で有名なニュージーランドの町名が付けられていても、日本を代表する英知が結集された良血である。息長く斬新なインパクトを放ってほしい。