サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マスクゾロ
【2016年 シリウスステークス】地道な努力が刻み込まれた快傑の仮面
キーンランド社のノベンバーセール(当歳)にて17万ドルで落札され、1歳2月、美浦トレセン近くの松風馬事センターに到着したマスクゾロ。母サラヴァティ(その父ジャイアンツコーズウェイ)は未勝利だが、その半姉にサンタアニタオークスなど米G1を5勝したユーがいる。父はフサイチペガサスの代表的な後継であり、ルーラーオンアイス(ベルモントS)などを輩出したローマンルーラー。日本でもサウンドガガ(スパーキングレディC)の父として馴染みがある。初対面した当時から、岡田稲男調教師はスケールの大きさを感じ取っていたという。
「がっちりした大型で骨量が豊富。奥深さを感じていましたよ。ただ、球節部分に負担がかかりやく、仕上げには慎重さが求められました。入厩からデビューまで2か月以上かけましたが、中身が伴ってくるのは先だろうと想像していましたね」
2歳8月の新潟、芝1800mは13着。先行できたものの、あっさり馬群に沈む。続く阪神の芝1600mも8着。ただし、もともと適性を見込んでいたダート1800mへ目を向けて一変した。スタートで後手を踏みながら、向正面から外を回って進出し、10月の京都を豪快に差し切る。もちの木賞(5着)に関しては、しきりに行きたがったのが敗因だった。
「フットワークが大きいだけに、器用な立ち回りは苦手。広いコースを選んで使ってきました。普段は大人しいのですが、気持ちをうまくコントロールできなくて。でも、ゆっくり休養させたことで、心身ともに成長しましたよ」
10か月ぶりとなった阪神こそ8着まで後退したが、続く京都では2番手より抜け出し、2馬身半差の完勝。ハナ差の2着に追い込んだ花背特別を経て、五条坂特別を順当勝ち。3番手から抜け出す安定した取り口で、伊丹Sを快勝した。
ところが、アンタレスS(9着)を走り終え、弱点の脚元に炎症が確認された。より慎重な仕上げが求められる。7か月ぶりの堺Sは7着。それでも、さらに間隔を開け、桃山S、ジュライSと連勝を飾り、鮮やかに復活を遂げた。
「慎重にケアを施しながらも、シリウスSへは十分な負荷をかけられました。すばらしい体付きになってきましたね。本来は力の要る馬場が得意なパワータイプ。芝スタートで少しもたもたしましたし、ダートも脚抜きがいい状態(やや重)でしたが、速い時計にも対応(レースレコード)できたんです。キャリアを積みながらレースを覚え、折り合いに気を遣う必要もなくなった。ハナへ行き切ってからは楽。物見して外に逃げましたので、最後はクビ差の接戦でも、余力は残っていましたよ。このまま軌道に乗れば、もっと上を目指せる手応えがありました」
地道な鍛錬が実を結び、仮面に隠されていた才能を開花させた「怪傑ゾロ」。最強の盗賊ながら筋金入りの紳士でもあるヒーローは、正々堂々と勝負に出て、みごとに重賞のタイトルを勝ち取った。しかし、全力を尽くせば、ガラスの脚部が悲鳴を上げる。懸命の立て直しが実り、BSN賞を2着したものの、6歳時のシリウスS(7着)がラストランとなった。
産駒は稀少ながら、底知れないポテンシャルを垣間見せたうえ、豪華な血統背景が魅力。種牡馬としても痛快な逆転劇を期待したい。