サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マカヒキ

【2016年 日本ダービー】豪華キャストを撃破した麦秋の収穫祭

 第83回のダービーは皐月賞馬のディーマジェスティ、後に菊花賞や有馬記念を制するサトノダイヤモンド、2歳チャンピオンのリオンディーズをはじめ、豪華メンバーが揃い、空前のハイレベルと評された。息詰まる攻防を勝ち切ったのはマカヒキ。スタートを決め、先行集団を見るかたちで脚をため、直線では狭いスペースを割って鋭く伸びる。最後の最後にサトノダイヤモンドをハナ差だけ交し、歓喜のゴールに飛び込んだ。友道康夫調教師は、こう満面の笑みを浮かべる。

「やはりダービーは特別。独特の雰囲気に緊張しました。ただし、状態には自信がありましたよ。厳しい競馬となった皐月賞を走り終えてもダメージがなく、弥生賞の後よりスムーズに調整できましたから。100%の態勢まで持っていけ、これで負けたら仕方がないと思っていたんです。近年で稀な強い相手を負かせ、価値ある勝利。ゴール前では久々に声が出ましたね。際どい決着となり、声をからして叫んでいました。周りの人に『おめでとう』と声をかけられても、ほんとに勝てたのかは半信半疑。写真判定が出て、オーナーと握手したあたりになって、ようやく冷静になり、感激がわき上がってきました」

 史上最速のスピードで勝ち鞍を量産し、同年のクラシックへも大挙して産駒を送り込んだディープインパクトが父。母ウィキウィキ(その父フレンチデピュティ)は1勝のみに終わったが、祖母リアルナンバーがGⅠ・ヒルベルトレレナ賞を制したアルゼンチンの名牝系。同馬の全姉にウリウリ(京都牝馬S、CBC賞など6勝)がいる。

「初めて見た1歳9月の時点でも、垢抜けたバランス。とても柔らかく、伸びやかです。ノーザンファーム空港で順調に乗り込まれ、反応の良さが評価されていました。夏にはいったん函館競馬場に移り、ゲート試験まで進めたところ、決してムキにならず、気持ちのコントロールが上手。姉のイメージと違い、距離はこなせそうな感触も得られましたね」

 もともと手がかからない優等生だけに、9月に栗東へ移動すると、スムーズに態勢が整う。10月の京都(芝1800m)では2馬身半の差を広げ、あっさり新馬勝ちを飾る。

「楽々と動け、先に勝ち上がった同期と比べても頭ひとつリード。ただ、直前はジョッキー(M・デムーロ騎手)がセーブし、15-15程度しか課していなかったんです。『これで十分』と自信満々でも、こちらは半信半疑でしたよ。それに、ストライドが大きく、いい脚が長く持続するタイプだろうと見ていたのですが、馬なりのままで33秒台の切れ。驚きました」

 軽い鼻出血を発症したため、3か月の間隔を開けて若駒Sへ。スローペースにきちんと対応し、ラスト32秒6の圧倒的な瞬発力を見せ付けた。そして、弥生賞を鮮やかに制し、クラシックの主役に躍り出る。朝日杯FSで1、2着したリオンディーズ、エアスピネルもしっかり脚を駆使したなか、一気に交わし去った。両者をコンマ8秒も上回る33秒6の決め手を炸裂させている。

「追い切りにも跨ったクリストフ・ルメール騎手は『オートマチック。反応も言うことなし』って話していましたが、普通はとても届かない展開。走る手応えがあったからこそ、無理のないローテーションを敷いたわけですが、またびっくりさせられましたね。緩さを残していても、精神的には完成され、古馬のようにどっしり。初の長距離輸送も難なくクリアでき、クラシックに向けては余力を残したまま、理想的なステップを踏めました」

 川田将雅騎手に乗り替わった皐月賞は、大外からメンバー中で最速の末脚(33秒9)を繰り出しながら、後方の位置取りが響き、ディーマジェスティの2着。苦い結果も、次の大目標に生かされることとなる。狙い通り、麦秋になってマカヒキ(古代ハワイの収穫祭であり、数か月間に及ぶ大イベント)の季節が到来した。

「初めてのジョッキーでも、ゲート自体の問題はなく、折り合いが付きました。ダービーのパドックで川田騎手に伝えたのは、『いい枠(3番)を引いたし、前目に行けるよね』とだけ。思い描いたポジション。道中は安心して観ていられましたよ」

 秋シーズンはフランスに渡り、ニエル賞に優勝。だが、凱旋門賞は14着に終わる。4歳シーズンはジャパンC(4着)まで5戦を消化して未勝利だった。札幌記念をハナ差の2着した以降も、連敗を重ねる。久々に勝ち切ったのが8歳時の京都大賞典。ファンは温かい拍手を送った。

 翌夏の札幌記念(16着)がラストラン。競走生活の後半は苦悩の連続だったマカヒキだが、青春期に放った輝きは未来へも語り継がれる。レックススタッドで種牡馬入り。ダービーウイナーにふさわしい豊かな収穫をきたいしたい。