サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マウントロブソン

【2016年 スプリングステークス】春陽に輝きを放つ白銀の秀峰

 NHKマイルCを制したうえ、JCダートでも驚異のレコードタイムを叩き出したクロフネ。芝・ダートを問わずに活躍馬を量産し、種牡馬としても成功を収めた。その半妹にあたるのがミスパスカリ(母父ミスターグリーリー)。3勝をマークしたうえ、マーメイドSでも3着に好走した。クロフネとともに優秀な遺伝子を次世代へと伝え、着々と枝葉を広げつつある。

 ウィンターコスモス(グリュイエールやアイスバブルの母)、ポポカテペトル(菊花賞3着)、ボスジラ(6勝)、ミヤマザクラ(クイーンC)ら、ミスパスカリ(パスカリは象牙白色の薔薇)の直仔はみな母系の芦毛を受け継いで誕生しているが、産駒の先陣を切って重賞の頂を極めたのがマウントロブソンだった。父は平成後期の日本競馬を牽引したディープインパクト。雪景色を連想する馬体にちなみ、白銀に輝くカナディアンロッキーの最高峰(ロブソン山)が名付けられた。

 ノーザンファーム早来で順調にペースアップ。2歳6月、美浦に入厩した。ゲート試験をパスすると、いったん北海道に戻って心身を整え直し、9月に帰厩。段階を踏みながら操縦性を磨かれ、反応が着実に上向いてきた。

 逃げ馬を捕え切れなかった新馬(東京の芝2000mを2着)に続き、同条件の未勝利でも後に皐月賞を制すディーマジェスティの2着に終わったが、この一族らしく、長くトップスピードが持続。身のこなしは柔らかく、ディープインパクト譲りのバネも兼備していた。中山の芝2000mに快勝。小倉のあすなろ賞は後方に置かれなから、コーナーからスパートを決め、後続を寄せ付けなかった。

 勢いに乗り、スプリングSへ。スタートを決め、好位で折り合いに専念する。エンジンのかかりは遅めでも、直線はひと追いごとに伸びた。後続にも脚を使わせる絶妙のラップを刻んたマイネルハニーをクビ差だけ捕えてゴール。大外を強襲したロードクエストも2着とクビ差の接戦ではあったが、強靭な渋太さを駆使する中身が濃い勝ち方といえた。手綱を託されたアンドレアシュ・シュタルケ騎手は、過去のVTRを繰り返し眺めたうえ、陣営と綿密に打ち合せを行い、この舞台でも豊富な持久力が生かせると確信していたという。

「流れに乗れれば、十分にチャンスがあると思っていた。スムーズに外へ出せていたら、もっと楽に勝てたと思う。気持ちに幼さがあるし、体も緩く、まだまだ奥が深い素質の持ち主だよ」

 早めに動いた皐月賞は6着。後方待機勢が上位を占める展開に泣いた。ダービー(7着)は痛恨の出遅れが響く。セントライト記念(7着)や菊花賞(7着)でも、ゲートの課題は克服できなかった。

 長めのリフレッシュが功を奏し、福島テレビOPで復活の勝利。後方に置かれた札幌記念(8着)を経て、オクトーバーSで5勝目を挙げる。中日新聞杯は6着だったものの、大外から鋭い末脚を繰り出し、地力強化をうかがわせた。

 5歳シーズンはダイヤモンドSをステップに、オーストラリアへ遠征するプランだったが、左トモに外傷を負うアクシデントに見舞われてしまう。長期に渡って治療を施しても、球節の腫れは癒えず、ターフへの復帰はかなわなかった。

 未完のままで終わってしまったマウントロブソンの高みへの登頂譚。それでも春の日差しに照らされた若き日の勇姿は、いつまでも雄々しく、美しく、ファンの目に焼き付いている。