サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マグニフィカ
【2010年 ジャパンダートダービー】巨星の魂が吹き込まれた若きスター
地方通算1276勝、重賞139勝(うちG1を13勝)という驚異的な成績を残した川島正行調教師。確認できる記録としては南関東で最多となる勝ち鞍である。2014年に66歳の若さで逝去する直前もまで、船橋の巨星は並々ならぬ意欲を燃やし続けていた。
「いいジョッキーが育ち、いい馬が育つのが船橋の伝統。JRA以上に歓声があふれていたころだってあったんだ。一度だけだが、リーディングジョッキー(1976年)になったし、トレーナーとしても目指すところまできたかなと、ちらっと頭に浮かんだこともある。でも、いまは地方競馬が苦しい時代だからね。もう後へは引けない思い。トップに立ってみると、余計に壁を感じたよ。中央を含めた全国に目を向ければ、もっと勝たなくちゃと気持ちばかりが先走って。良いものはどんどん取り入れてきたつもりだけど、悩んだときほど原点に戻るべきだと気付いてね。しっかり手をかけ、懸命に馬と接するのがやはり基本。ひとつひとつの積み重ねを大切にして、まだまだがんばらないと」
アジュディミツオー(東京大賞典2回、川崎記念、かしわ記念、帝王賞)、フリオーソ(全日本2歳優駿、ジャパンダートダービー、帝王賞2回、川崎記念、かしわ記念)をはじめ、日本を代表するスターホースを送り出しているが、マグニフィカも2010年のジャパンダートダービーにて、まばゆい輝きを放った。
ゼンノロブロイのファーストクロップ。同期にはサンテミリオン(オークス)がいる。母フサイチエレガンス(その父ラーイ)は不出走だが、繁殖成績は優秀であり、同馬の兄姉にステルステクニック(地方10勝)、エロージュ(地方3勝、トゥインクルレディー賞2着、ユングフラウ賞2着、桜花賞3着)ら。社台グループオーナーズの所属となり、馬主を対象に総額1600万円で募集された。
「いろいろな馬を見てきたなかでも、ゼンノロブロイの産駒は好みなんだ。父がサンデーサイレンスで、母父はミスタープロスペクター系のマイニング。強靭さやスピードがあるからね。父に似て、トモが張っている馬が走る。もっとゴツいけど、かつて牧場で見学させてもらった同い年のペルーサ(青葉賞)もそう。藤沢くん(和雄調教師)も、わざわざマグニフィカを見にきたことがあり、『やっぱり同じ体型だ』って納得していたよ。結局、アジュディミツオーやフリオーソの域に及ばなかったとはいえ、3歳前半までの走りは同等以上。並外れた素質を感じていたし、大きな夢を運んでくれた」
2歳6月の船橋(ダート1000m)でデビュー。あっさり逃げ切り勝ちを収めると、ゴールドジュニアまで4連勝で突き進む。だが、マイルに距離が延びたハイセイコー記念(3着)で初の敗戦を経験。全日本2歳優駿では後方のまま、11着に沈んだ。
「まだ中身ができていなかったし、レースを覚えていく途上にあった。東京湾C(1着)まで長めに休ませたことで、いいタイミングで充実してくれたよ。東京ダービーは3着に敗れたとはいっても、テンが速すぎたからね。ペース配分がうまくいけば、ジャパンダートダービーでもチャンスがあると思っていたんだ。圭太(戸崎騎手)との呼吸もぴたりと合ったし、理想的なレースができた。中央の強豪を従えての勝利。うれしさも格別だったなぁ」
単勝1・5倍の断然人気はバーディバーディ(6着)。それに続き、トーセンアレス(5着)、コスモファントム(2着)、ミラクルレジェンド(4着)、バトードール(3着)とJRA勢が支持を集め、同馬は6番人気(20・8倍)に甘んじていた。マークされないと見て、果敢に主導権を握る作戦。2ハロン目に11秒3のラップを刻んで果敢にハナを奪うと、いったん息を整えたうえ、平均的な流れを演出する。大井の長い直線が待ち受けていても、なかなか隊列は崩れない。熾烈な2着争いを尻目に、悠々とゴールに飛び込んだ。
ところが、完成途上の心身で全力を尽くした反動は大きかった。懸命な立て直しが図られたものの、真面目すぎる精神面も災いし、なかなか本調子を取り戻せない。川島師のもとでは、5歳時の京成盃グランドマイラーが以降の唯一となる勝ち星。笠松と園田で現役を続行したものの、移籍後も1勝ちしたのみだった。
華やかな栄光に反し、その後の歩みは対照的。それでも、馬づくりの達人の情熱が凝縮された若き日のパフォーマンスは、いまでも鮮明なまま、ファンの目に焼き付いている。