サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アンドリエッテ

【2018年 マーメイドステークス】誠実な才女がつかんだ至福のゴール

 追い込み一手の脚質ゆえに、なかなかタイトルに手が届かずにいたアンドリエッテ。鬱憤を晴らしたのが6歳時のマーメイドSだった。10番人気(単勝17・1倍)に甘んじていたとはいえ、インをロスなく立ち回り、レースの上がりをコンマ6秒も凌ぐ末脚(3ハロン34秒4)が炸裂。鮮やかな差し切りを決めた。

「牝にしては飼い葉を食べてくれ、調整しやすいのが心強い。厳しい戦いが続いてもダメージなどうかがえないうえ、真面目な姿勢を崩しません。もともと一瞬の鋭さには自信を持っていたんです。ここまで時間がかかったぶんも、喜びが倍増します。でも、あれこれ気を遣う必要がありませんので、今回も平常心で臨めましたね。出会いに感謝するしかありません」
 と、牧田和弥調教師は穏やかな笑みを浮かべた。

 母アナバシュドチャーム(その父シルヴァーデピュティ)はアメリカで3勝をマークした。同馬の半兄にアールシネマスタア(3勝)ら。祖母アンブライドルドホープがダート10ハロンの米G3・レイディーズHの勝ち馬である。近親にシュガーショック(米G3・ファンタジーS、ラーゴムの母)も名を連ねるファミリーだが、父ディープインパクトの魅力をストレートに受け継いで誕生した。

「当歳で出会ったときは全身が冬毛に覆われ、ぬいぐるみみたい。かわいかったですね。だんだん柔らかさやバネが前面に出てきて、さすがにディープ産駒だと思わせました。ノーザンファーム空港で順調に乗り込まれ、2歳10月に栗東へ。将来につながるよう、控えめな追い切りでデビューさせましたが、素直で大人しく、学習能力は優秀。常に反応も期待を上回るものでしたよ」

 阪神の芝1400m(3着)でデビュー。使われた上積みは大きく、続く芝1600mを鮮やかに差し切った。クイーンCも大外を回りながら、4着まで脚を伸ばす。

「初の長距離輸送で12キロもの体重減。びっくりしましたが、落ち着きは保っていましたし、心配したほど堪えてはいなかった。イメージ以上に芯がしっかりしています。翌週の火曜に計ったら、レース時より14キロ増の440キロまで戻っていて、回復力に感心させられました」

 チューリップ賞は、切れが削がれる重馬場。勝負どころで寄られ、ラチに接触するシーンもあったが、直線では旺盛な闘争心を爆発させる。後方からぐんぐん伸び、2着を確保した。桜花賞は6着に敗れたとはいえ、前例のないスローペース。メンバー中で最速となる33秒2の決め手を駆使している。

 オークスも5着に健闘。秋シーズンもローズS(6着)、秋華賞(4着)と見せ場をつくった。ところが、のんびりスタートする傾向は変わらない。4歳になり、うずしおSに勝利したものの、1000万下に降級してからも展開に恵まれず、ようやく3勝目をつかんだのは、5歳11月の衣笠特別だった。さらにバールS(3着)まで連敗を重ねてしまう。

「それでも、年齢による衰えはうかがえませんでした。以前より道中で無駄な力を使わなくなってきましたしね。相手関係より、この馬の持ち味さえ生かせたら、まだまだチャンスがあると見ていました」

 ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルの母名がアンドリエッテ。偉人の精神性に多大な影響を与えたという。誠実に努力するターフの才女も、28戦目にして大きな成功を収めることとなった。

 以降はクイーンS(5着)のみで現役を退き、フレッシュな心身を保ったままで繁殖入り。いずれ破格の爆発力を誇る逸材が登場するに違いない。