サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マチカネニホンバレ

【2009年 エルムステークス】真夏のダートに降り注ぐ晴れやかな陽光

 2歳の暮れに美浦へ移動しながら、なかなか出走態勢が整わなかったマチカネニホンバレ。放牧を挟んで弱かった体質も強化され、3歳6月の東京、芝1800mでデビューしたものの、後方に置かれて14着に沈んだ。だが、使われた効果は大きく、福島の芝2000mを2着。続く函館(芝1800m)こそ6着に終わったが、ダート1700mを試したところ、一気に才能を開花させる。5馬身差の楽勝を収めた。

 2年連続で年度代表馬に選出されたシンボリクリスエスの産駒。サクセスブロッケン(ジャパンダートダービー、フェブラリーステークス、東京大賞典)、ルヴァンスレーヴ(全日本2歳優駿、ジャパンダートダービー、南部杯、チャンピオンズC)をはじめ、砂路線での成功例も多い。母マチカネチコウヨレ(その父デピュティミニスター)は不出走だが、その半兄にマチカネキンノホシ(アメリカJCC、アルゼンチン共和国杯)がいる。祖母アリスベルがG2・ラカナダSの覇者という筋が通った血筋だ。

 連闘で臨んだ札幌の500万下は3着。ひと息入れて調子を上げ、東京のダート1600mでは後続を5馬身も置き去りにする。同条件の1000万下が滅多に見られないワンサイド勝ち。2着を1秒9も突き放している。早くもオープン級のポテンシャルを示していた。

 裂蹄により、5か月半のブランクを経たが、勢いは止まることを知らなかった。横浜S、ブリリアントSと次々に突破。マリーンSも自ら主導権を握って押し切った。タイムは1分41秒7のレコードだった。しらかばS(10着)は大きく期待を裏切ってしまったが、トップハンデとインで窮屈な走りを強いられた結果である。

 初めて重賞の舞台に立ったのがエルムS。この年は新潟で施行され、同条件のレパードSまでダートを4連勝していたトランセンドに1番人気(単勝1・6倍)を譲ったとはいえ、2番手となる4・8倍の支持を集めた。前走を踏まえ、北村宏騎手は積極的に2番手をキープする。中盤でペースが落ち、十分に脚がたまった。4コーナーで先頭へ。他の先行勢も手応えは楽だったが、渋太く伸びてトランセンド(4着)を振り切る。中団待機から伏兵のネイキッドがぐんぐん迫ってきたが、いったん交わされながらぎりぎり差し返す。着差(ハナ)以上に中身が濃い勝利だった。

「我慢していたら、大勢が決まってしまいそうだったので、前々で運んだ。直線ではネイキッドとの間にクリールパッション(3着)が入ってきて、立て直すシーンがあり、これは際どくなるって覚悟したけど、馬はしっかり応えてくれたよ。ポンポンと重賞まで駆け上がったわけでも、まだ隠された面がありそう。これからも活躍してくれると思う」
 と、ジョッキーも晴れやかな笑みを浮かべた。

 以降はJRAで8戦を消化した。未勝利に終わった反面、オープン特別での2着が3戦あるうえ、重賞での掲示板が4走。6歳時のフェブラリーSでも5着に健闘している。1年7か月の休養後、地方に転出。高知や福山で4勝したが、往年の強さは蘇らなかった。

 晴れ時々曇りの競走生活。なかなか日本晴れに恵まれなかったマチカネニホンバレだったが、接戦の末、まばゆい陽光に照らされたエルムSでのパフォーマンスは、いまだに鮮明なままである。