サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マイネルクロップ
【2015年 マーチステークス】タフな心身で勝ち取ったグレートクロップ
HBAセレクションセール(当歳)に上場され、900万円で落札されたマイネルクロップ。NHKマイルCで世代の最強マイラーに上り詰めたうえ、驚異のレコードタイムをマークしてジャパンCダートに圧勝したクロフネが父である。母グレートハーベスト(その父サンデーサイレンス)は未勝利だが、その全姉にプリモスター(5勝)、半弟にもアフリカンハンター(4勝、地方2勝)ら。ラフィアンターフマンクラブでの募集総額は1800万円に設定された。
「初めて見た1歳の段階でも、しっかりした馬体。ビッグレッドファーム明和の坂路コースで乗り始めたころには、もう古馬のような雰囲気でした」
と、飯田雄三調教師は育成当時を振り返る。
2歳7月、札幌競馬場に入厩した当初よりハードに攻めることができ、1か月足らずで出走にこぎつけた。初戦の芝1800mは4着。続くダート1700mを勝ち上がる。それでも、早めに先頭に立ってふわふわし、全力を尽くしていないように映った。
「もともと心肺機能が優秀。調教も動きました。性格的には大人しい。でも、札幌滞在時は慣れないトラックコースでの調教に戸惑い、物見が激しくて。疲れなどうかがえず、使い込める反面、周囲に気を遣う面が響き、じれったいレースも多かった」
もちの木賞はアタマ+クビ差の3着。12月の中山(ダート1800mを3着)では出遅れに泣いた。2度目の芝となった若駒Sで2着に前進し、2月の京都、ダート1800mは4馬身差の快勝。昇竜Sを3着するなど、昇級後の4戦でも見せ場をつくり、夏休みに入った。
愛宕特別(7着)、嵯峨野特別(クビ差の2着)を経て、花背特別で3勝目をマーク。摩耶S(4着)、初夢S(2着)と、右肩上がりに進歩を示す。2番手から抜け出し、北山Sを快勝。後続を3馬身半も突き放した。
左前の跛行により、5か月間のブランク。それでも、コンスタントにレースを重ねながら復調し、復帰4戦目の平城城Sでハナ+クビ差の3着に浮上。花園S(2着)、北総S(7着)を経て、初夢Sを3馬身差で完勝する。
東海S(7着)は強豪の壁に跳ね返されたが、3番手から早めに動き、佐賀記念に競り勝つ。ついに重賞のクロップ(収穫)がかなった。
「タフな心身に感心させられましたね。外見はそう変わっていなくても、鍛えるごとに力を付け、一段と走りが豪快に。それに比例して成績も安定しました。課題のスタートが改善され、最後まで集中力が途切れないようになって、精神的にも成長。いい脚を長く使える特徴が生きてきました」
そして、ベストパフォーマンスを演じたマーチSへ。中団で脚をため、直線は狭いスペースを割って渋太く伸びる。3頭が横並びでゴールした接戦をクビ差で凌いだ。騎乗した丹内祐次騎手にとっても、忘れられない一戦。こう声を弾ませる。
「道中の手応えは抜群。勝負どころでもうまく操縦できました。ゴールを過ぎても勝てた確信はなかったのですが、次々に『おめでとう』って声をかけられ、じわじわ喜びがわいてきましたよ。JRAの重賞は初勝利。ほっとしています。これからは自信を持って騎乗したい」
以降は20連敗を喫したものの、6歳時の佐賀記念も2着。翌冬のアルデバランSを2着するなど奮闘を続ける。さらに障害戦へと転向。2戦目の未勝利を勝ち上がり、続くペガサスジャンプSに優勝した。
10歳まで54戦を走り切り、ハーベストは9勝。偉大な競走生活をたどれば、長編小説を読み終えたときのように、深い感動が沸き起こってくる。