サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マイネルスターリー
【2010年 函館記念】洋芝に愛された夏の一等星
一瞬しか鋭い脚を使えず、流れに乗れないケースも多かったとはいえ、7歳時のエプソムCでは果敢にインを突いて3着するなど、晩年まで存在感を示したマイネルスターリー。
父はコジーンの後継であり、アーリントンミリオンなどに勝ったスターオブコジーン。軽さやスピードに富み、勝ち上がり率は優秀だった。G1ホースは送り出せなかったが、エンゼルカロ(函館3歳S)をはじめ、初年度より3頭の重賞ウイナーが登場し、一時は100頭以上の繁殖を集めた。
母スイートウインク(その父サンデーサイレンス)は2勝をマーク。その半姉に京都記念など重賞4勝のワコーチカコがいる。セレクトセール(当歳)にて1100万で落札。ラフィアンターフマンクラブの所属となり、総額2000万円で募集された。
当初より柔軟なフットワークに見どころがあり、2歳8月に札幌で迎えた新馬戦(芝1500m)は4着。出遅れながらも、大外を豪快に追い込む。中1週で臨んだ芝1800mを勝ち上がり、札幌2歳S(12着)へも駒を進めた。だが、2勝目は想像以上に遠かった。気性面の若さが目立ち、イレ込みがち。なかなかレース運びは安定しない。そんななかでも、共同通信杯を3着しているように、非凡な才能は疑いようがなかった。
滞在競馬に加え、小回りコースや洋芝は大歓迎。3歳夏に知床特別、サロマ湖特別と連勝を飾る。しばらく勝ち切れないレースが続いたものの、翌年の札幌でもライラック賞、ポプラSと立て続けに勝利。勢いに乗り、東京のオープン(アイルランドT)まで3連勝で突き進む。
小倉大賞典は2着でゴールしながら、最後に外へよれ、5着に降着。以降の3戦も僅差で敗退を重ねた。ただし、あとは折り合いや抜け出すタイミング次第。タイトルに手が届きそうな感触は十分にあった。
函館記念では単騎免許で来日したダグラス・ホワイト騎手の手綱。「ゲートさえクリアできれば、もっと走れる馬。過去のレースをVTRで見て、スタートが鍵だと思っていた。ポンと出てくれたのが一番の勝因だね」と、香港の名手は振り返る。すでに日本でもアンブロワーズで函館2歳Sを勝利していて、コースの特徴もしっかり把握しいた。
先行集団を見ながら、リズム良く運ぶ。勝負どころの3コーナーでは馬群の外へ導くと、馬もがっちりハミを取った。早くも4角で先頭。直線はラチ沿いを走らせて遊ばせず、まっすぐに伸びた。後続に3馬身半差の快勝だった。
「乗り難しい面も見せなかったし、最後まで手応えは楽。思い描いた通りだった。それにしても、すごく強いファイターだよ」
ところが、出遅れ癖は完全に改善されてはいなかった。以降は21戦も重賞に挑みながら、未勝利に終わる。それでも、6歳時の巴賞を鮮やかに差し切り、コース巧者ぶりを発揮している。昨年の新潟大賞典(13着)がラストラン。通算49戦8勝の戦績を残し、乗馬に転身した。
北海道に短い夏がやってくるたび、マイネルスターリーの勇姿が浮かび上がってくる。長きに渡る競走生活に反し、輝いた時期は短かったけれど、いまでも函館のターフにはくっきりと、その蹄跡が刻まれている。