サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
マイネルレーニア
【2008年 スワンステークス】7ハロンのターフで際立つ真っすぐな才覚
2歳夏より7歳まで息長く36戦を消化し、6勝を挙げたマイネルレーニア。そのうち5勝を勝ち取ったのが芝1400mだった。西園正都調教師は、こう独自の特性を説明してくれる。
「実力がありながら、なかなか発揮できなかったぶん、スワンSを勝ったときの喜びといったら。自分のリズムを守って先行しないと持ち味が生きなかったからね。1200mは忙しいし、マイルでもペース配分が難しいんだ」
父はグラスワンダー。スクリーンヒーローやアーネストリーをはじめ、産駒は成長力に富むターフランナーが多い。近親にジャガーメイル(天皇賞・春)やイクノディクタス(安田記念や宝塚記念を2着)がいるものの、母チェリーラブ(その父サクラユタカオー)は短距離色が濃く、1400mと芝1200mで2勝をマークした。
北海道市場サマーセール(1歳)にて、1100万円で落札。ラフィアンターフマンクラブにて総額2000万円で募集された。
「他にも何頭かの候補を薦められたなか、この仔を預かりたいって即答したよ。もちろん、筋肉質の雄大な馬体に惹かれたわけだけど、母の名「チェリー」も決め手だった。ジョッキー時代の勲章は、チェリーテスコでのカブトヤマ記念制覇(85年)。調教師になってからも、タムロチェリーで最初のG1(阪神JF)に勝てた。縁があるからね」
アメリカンチェリーの高級品種「レーニア」と名付けられ、西園厩舎にやってきたのは、2歳の6月。1週間後にはゲート試験をクリアし、翌月の新馬(京都の芝1200m、10着)では早くもデビューする。真面目な優等生であるとともに、能力も確か。夏の新潟で芝1400m、ダリア賞と一気に連勝し、重賞戦線へと向かった。
担当する甲斐基郎調教助手も、同馬の才能に惚れ込んでいた。
「デビュー前から若駒とは思えない堂々とした態度。パワーが身上で、調教では常に豪快な動きを見せます。脚元も丈夫ですし、本当に手がかからい優等生でした」
新潟2歳Sも逃げ粘って3着。いわゆるベタ爪なのに、渋った馬場が得意だった。やや重の京王杯2歳Sで初のタイトルを手にする。朝日杯FSでも5着に健闘した。
アーリントンC(3着)から再始動。なかなかペースに恵まれず、翌夏まで1年7か月も勝利から遠ざかった。ただし、ストークSの勝ち方はインパクトが大。後続を4馬身も突き放し、状態アップを印象付けた。マイペースでハナヘ行けたポートアイランドSを圧勝。そして、スワンSへと駒を進めた。
G2でもスピードは優り、楽に先手を奪う。ほぼ前後半イーブンの絶妙なラップを刻んだ。ラストの切れも要求される良馬場にもかかわらず、最後で差し返す渋太さを発揮。後に高松宮記念やスプリンターズSを制する同期のローレルゲレイロをねじ伏せ、みごとに勝ち切ってみせた。タイムも1分19秒9の速さだった。
さらなる前進が見込まれた同馬だったが、結局、この一戦がピークだった。5歳時に米子Sをクビ差の2着したのが、以降の最高着順。徐々に身のこなしに硬さが目立つようになる。7歳時の阪急杯(16着)がラストラン。札幌競馬場の誘導馬となり、2023年の開催終了まで役目を全うした。
競走生活を通して、速球一本で勝負したマイネルレーニア。真っすぐな魂は、いまでも淀のターフにしっかりと刻み込まれている。