サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

マジカルポケット

【2010年 函館2歳ステークス】魔法のポケットを叩いてみると

 オルフェーヴルやアパパネが登場した世代にあって、初のタイトルホルダーとなったのがマジカルポケット。函館2歳Sでの着差はわずかハナだったが、センスが際立つ内容だった。好位で脚をため、直線は他を圧倒する伸び脚を駆使。図ったように差し切った。

 レース後、手綱を取った安藤勝己騎手は、こう苦笑いを浮かべた。
「楽に抜けられると思ったが、2着馬(マイネショコラーデ)のムチにびっくりして、最後は際どくなってしまったよ。歩様に硬さがあり、まだ本物じゃないと感じた。ピッチ走法だから、距離が延びてどうかだけど、かなりの可能性を秘めている」

 父は中長距離向きのジャングルポケット。ただし、そのイメージに反して全体に丸みがあり、厚いトモが印象的だった。母アズワー(その父ダンチヒ)は米、英で3勝。英セントレジャーに勝ったライトキャヴァルリーや英1000ギニー馬のフェアリーフットステップスなどが出ているファミリーの出身である。HBAセレクションセール(1歳)にて1000万円で落札された。

 持ち乗りで担当した宇佐見眞調教助手も、非凡な才能を感じ取っていた。
「半姉にコウユーキズナ(5勝)などがいる厩舎(2014年に定年を迎えるまで領家政蔵調教師が管理)にとってはなじみの血統。夏の小倉で新馬勝ちしたコウユーココロコロ(1勝)の下でもあるだけに、4月末にトレセンにやってきた当初より完成度が高かった。育成先の坂東牧場でも、しっかり乗り込まれてきましたからね。ただ、イメージ以上にスケールは大きかったですよ。デビュー戦(6月の函館、芝1200m)は出遅れながらも押してハナに立ち、勝ちにいく競馬。あんなに突き放し(2着のロビンフットに2馬身半差)、性能に自信を深めました」

 しっかり疲れを癒したうえ、函館2歳Sへ。だが、直前になり、調整に狂いが生じてしまう。ヒジに軽い痛みを訴え、1週前追い切りを翌日に延ばす誤算があった。

「患部をマッサージしたりして、なんとか態勢を整えたんです。そんな不安を抱えた状況でも、攻め馬は常に動きますし、スピードが違います。若駒らしくひびりな面があっても、普段は大人しく、賢いのが長所。道中は馬群でしっかり脚をためられたように、とても乗りやすい。難なく跳ね返してくれましたよ」

 単なる早熟タイプとは思えなかったが、以降も熱発したり、筋肉痛を起こしてしまったり、なかなか万全の体調が整わない。6歳まで現役を続行したものの、結局、再浮上のきっかけがつかめないまま、14連敗を喫してしまう。6歳の6月に競走馬登録を抹消。乗馬に転身した。

 魔法のポケットを叩いてみると、大きく夢がふくらんで、あっという間に重賞ウイナーとなったマジカルポケット。輝きを放ったのはつかのまではあったが、錚々たる同期を牽引するのにふさわしい魅力を備えていた。