サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
テイエムプリキュア
【2009年 日経新春杯】可憐に変身を遂げたキュアアイドル
新馬、かえで賞と連勝を飾り、阪神JFでも鮮やかな差し切りを決めたテイエムプリキュア。8番人気(単勝22・6倍)の低評価を覆し、みごと2歳女王に登り詰めた。
母フェリアード(その父ステートリードン)は2勝をマーク。パラダイスクリークが配されて誕生した。同馬の半弟にテイエムハリアー(京都ハイジャンプなど障害重賞を3勝)、マイネルフィエスタ(京都ジャンプS)がいるとはいえ、HBAオータムセール(当歳)に上場された当時、注目する関係者は少なかった。落札価格はわずか250万円。ここまでの歩みだけでも、ドラマチックなシンデレラストーリーといえる。
ただし、チューリップ賞(4着)以降、長期に渡って勝利から遠ざかる。実に24連敗。5歳時の日経新春杯(3着)、アルゼンチン共和国杯(4着)を除けば、掲示板も確保できずにいた。再び日経新春杯に臨んだ際も、11番人気(単勝34・4倍)に甘んじる。
「初めて跨った愛知杯(18着)は、悔いが残る結果でした。かつての自分を振り返ると、気持ちに余裕がなく、安全策を取ることが多かったように思うのですが、これで引退(レース後、現役続行が決定)だと聞いていましたので、なんとか見せ場をつくりたかったんです。長く使える脚を生かそうと、迷わずにハナへ行きましたよ。事前のイメージ通り、坂の上から攻めることができましたね」
と、みごとに低評価を覆した荻野琢真騎手は振り返る。果敢に大逃げを打ち、後続ははるか後方。それでも、ゴールはとても遠かったという。
「どのくらい離しているのか確認したくて、ターフビジョンをちらっと見たら、ちょうど2番手の馬群が大写しになっていました。なにか飛んでくるに違いないって不安になり、それからはもう必死でしたよ」
2着に3馬身半差を付ける派手な勝利。ジョッキーにとって、初となるグレードレース制覇だった。
「夢のような出来事。競馬が終わって携帯を見たら、メールが60件、電話の着信が20件も。返信だけでもひと苦労でしたが、本当にありがたかったですね。こちらが知らない人からも『おめでとう』って声をかけられ、やはり重賞は違うって実感しました。決しておごるわけではないですが、自信となったのは確かです。プリキュアのがんばりは、積極的な姿勢が大切だって教えてくれたような気がします。あれ以来、一番重視したのはスタート。走るのは馬ですから、好ダッシュできると信じ、無駄な動きをしないよう心がけることにしました」
エリザベス女王杯(2着)でも、クィーンスプマンテとともに波乱を巻き起こしたうえ、7歳秋のエリザベス女王杯(17着)まで現役を続行したテイエムプリキュア。母としては目立った産駒を送り出せず、2022年の出産後、繁殖を引退。功労馬として余生を送っている。いつまでも痛快な一撃の喜びを忘れず、幸せに過ごしてほしい。