サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
アントニオバローズ
【2009年 シンザン記念】名馬に導かれた会心のゴール
HBAセレクションセール(1歳)にて1470万円で落札されたアントニオバローズ。父は2009年にリーディングサイアーを獲得したマンハッタンカフェ。同期にジョーカプチーノ(NHKマイルカップ)、レッドディザイア(秋華賞)らがいる豊作の世代にあたる。母リトルアロー(その父キングマンボ)は不出走だが、その兄姉にアロータウン(米7勝、G2での2着が3回)、レディボナンザ(4勝、フラワーCを2着)がいる。
2歳6月に栗東へ。ひと追いごとに反応が良化し、8月の小倉(芝1800mを2着)では単勝1・4番の断然人気に推された。物見をして気を抜くシーンがあり、直線でもラチに接触する若さを見せ、後に中京2歳Sを制するメイショウドンタクとの一騎打ちに屈したものの、3着馬とは1秒7もの差が開いた。
4か月半のリフレッシュを経て、12月の阪神(芝1400m)を勝利。2馬身半差を付ける圧倒的な内容に自信を深めた陣営は、シンザン記念への参戦を決断した。
前走に続き、ホライゾネッドを着用したままでスタート。4番手に収まり、なんとか折り合いも付いた。コーナーで外に逃げ、追われてから内にもたれながらも、渋太く脚を伸ばす。迫るダブルウェッジを力強くねじ伏せ、日本競馬史上に偉大な足跡を残した名馬のメモリアルレースを堂々と制した。
騎乗した角田晃一騎手(現調教師)は、こう秘めた才能を絶賛する。
「まだ気負って前半はもたついたし、いかにも粗削りな状況なのに。早め先頭だとふわっとするが、最後に並ぶかたちに持ち込めたのが良かった。スタミナは相当あるからね。距離は延びても大丈夫。でも、今後もメンタル面が課題となる」
管理する武田博トレーナーにとって、シンザンは父であり、師匠でもある武田文吾師が育てた最高傑作。騎手時代に実戦でも跨り、オープンで3勝した忘れられないパートナーだった。偉大な3冠馬の後を追ってクラシックへと進むこととなる。
ただし、弥生賞を目前に右前の歩様が乱れ、無念の回避。3コーナーからスパートした皐月賞(9着)は、直線で失速してしまう。
プリンシパルSを2着し、晴れてダービーへの出走権を獲得。生憎の不良馬場にもかかわらず、見せ場たっぷりの3着に食い込む。非凡な身体能力や気の強さが最大限に生かされた。
しきりに行きたがった神戸新聞杯(11着)に続き、菊花賞(18着)でも早めに後退。気性面の難しさだけでなく、喘鳴症に行く手を阻まれた。バレンタインS(16着)でも結果が出なかったことで、ノドの手術を行うことに。だが、放牧先より帰厩する際に肺炎を発症した。懸命の治療も実らず、4歳6月にこの世を去ってしまう。あまりに早すぎる別れだった。
短い一生に旺盛な闘争心を集約させたアントニオバローズ。手にしたタイトルはひとつだけだったとはいえ、シンザンに導かれて手にした栄光は、永久に輝きを放っている。