サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アーバニティ

【2009年 オーシャンステークス】偉大な姉に導かれた栄光のゴール

 2006年の開業以来、優秀な勝ち上がり率をキープするとともに、サンテミリオン(オークス、フローラS)をはじめ、6頭の重賞ウイナーを輩出してきた古賀慎明調教師。そのなかでも、アーバニティについては「キャリアが浅い時期に勇気を与えてくれた忘れならない一頭」だと感慨深げに話してくれる。

 2歳8月に札幌(芝1800m)でデビューしたものの、直線に差しかかったところでは右前脚に骨折を発症し、大きく遅れた13着に敗れたアーバニティ。社台ファームにて長期のリハビリ生活を送る。未勝利戦が組まれている間の復帰は果たせず、ホッカイドウ競馬へ移籍。2着してシーズン終了を迎えたため、園田に転厩した。楽々と4連勝を飾り、JRAへ再転入することに。新たな受け入れ先となったのが、3年目のシーズンを迎えた段階にあった古賀厩舎だった。

 父は様々なカテゴリーに一流馬を送り出し、2009年にチャンピオンサイアーに輝くマンハッタンカフェ。母レガシーオブストレングス(その父アファームド)の産駒に、サイレントハピネス(重賞2勝、サイレントメロディの母)、スティンガー(阪神JFなど重賞を5勝)らがいる。藤沢和雄調教師のもとで助手を務めた若きトレーナーにとって、馴染みの血脈である。

「巡り会いに感謝するしかないですよ。ボルトで固定した第一指骨と相談しながらの始動でしたが、抱いたイメージ通り、すぐに芝のマイルくらいで才能を発揮し始めました」

 ダートを3着した後、東京の芝1400m、村上特別と連勝。朝日岳特別も2着に健闘する。相模湖特別で1000万クラスを卒業。以降は3着、9着と成績を下げたが、リフレッシュを挟んで再浮上する。雲雀S(6着)を経て、韓国馬事会杯を鋭く差し切った。

「初めてスプリント戦へ。スティンガーの高松宮記念(爆発的な末脚で3着)に後押しされてのレース選択でした。翌週のオーシャンSに挑んだ際も、思い出されたのは連闘で阪神JFを制した半姉のこと。期待以上のパフォーマンスに感動しましたね」

 前走より位置取りは後ろとなったが、窮屈な馬群でもリズムを保てた。直線もインにこだわって強襲。いったん進路がふさがったが、そこから外に導かれても脚色に余裕があった。2着から10着までがコンマ2秒内にひしめく混戦をぐいと抜け、一気の重賞制覇がかなう。

「かつては前向きすぎて気を遣ったものですが、精神面が穏やかになり、調整がしやすくなりました。ただ、以降はキーンランドCの直前に落鉄するアクシデント(回避)があったり、運に恵まれなくて。そんな苦い教訓も含め、あの馬にはたくさんのことを学びましたよ。これからの馬づくりにも生かしていかないと」

 高松宮記念(14着)、スプリンターズS(7着)ではG1の厚い壁に阻まれた。オーロC(2着)、京王杯SC(3着)、函館スプリントS(5着)、スワンS(4着)などで好走したが、結局、連敗を重ねる。それでも、7歳時もシルクロードSを2着し、高松宮記念では3着に食い込んだ。阪神C(14着)がラストラン。乗馬となった矢先、骨折に見舞われ、早世したのが惜しまれる。

 陣営だけでなく、多くのファンに夢を運んだアーバニティ。いまでも黒光りする美しい勇姿が目に焼き付いている。