サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

テトラドラクマ

【2018年 クイーンカップ】破格のポテンシャルを垣間見せた気丈な乙女

 東京の長い直線を堂々と押し切り、2018年のクイーンCを制したテトラドラクマ。管理した小西一男調教師は、誠実な取り組みに信望が厚く、安定したアベレージを誇っているが、これが20年ぶりとなる重賞の栄光だった。

「ゲート次第でレースを組み立てようとしたなか、自然とハナへ。外から被せられても力まず、あの仔にはマイペースでしたね。それにしても、5ハロン通過が57秒台のハイラップ。追われて手応え通りに伸び、持久力の違いも示している。勝ちタイム(1分33秒7)は、牡馬相手に通用するレベルですよ。いまだ伸び盛りにあり、もっと大きな感激を運んでくれるはずの器。きめ細かい体調管理に努め、いい流れを将来につなげていけたら」
 と、静かに喜びを噛み締めていた。

 卓越したスピードは、スプリント戦を3勝した母リビングプルーフ(その父ファルブラヴ)より受け継いだもの。半弟にあたるセプタリアンも障害での3勝を含め、6勝をマークした。祖母の半姉にシーキングザパール(NHKマイルC、モーリス・ド・ゲスト賞)が名を連ねるファミリーである。

「巡り会いに感謝するしかないですね。ノーザンファーム空港で乗り込まれていた当時も、軽快な動きが評判でした。もともと馬格に恵まれ、筋肉量が豊富。性格も真面目ですよ。デビュー前から無理なく好時計をマークできました」

 福島で迎えた新馬(芝1200m)は出遅れが響いて9着。しかし、東京の芝1600mでクビ差の2着に前進し、確かなポテンシャルを垣間見せる。続く同条件は、5馬身差の圧勝だった。

「距離の融通が利くあたりは、父ルーラーシップの血でしょう。それに、目覚ましい成長力も。NF天栄での放牧を挟むたび、緩かった体に芯が入り、どんどんたくましくなっていく。急坂の中山に対応できるパワーを兼備しているとはいえ、フェアリーS(6着)は不利な大外枠に加え、他馬と接触してリズムを欠きました。クイーンCでは、これまでで一番、落ち着きを保って臨めましたからね。精神的な充実も著しい。周囲を気にしたり、実戦で燃えすぎたりする傾向が和らいできました」

 懸命に戦い抜いた反動に配慮して、桜花賞はパス。NHKマイルCへと夢がふくらんだが、他馬のマークは厳しく、14着に沈む。脚元の不安に見舞われ、使い込めない状況のなか、オーロC(6着)、東京新聞杯(12着)、谷川岳S(5着)、パラダイスS(10着)と成績は上下動した。

 復活の勝利を挙げたのが4歳時のオーロC。後方からシャープに突き抜け、イメージを一新させた。ところが、放牧先のNF天栄にて、トレッドミル後方のバーに馬体を打ち付ける事故に見舞われ、頸椎骨折の重症を負ってしまう。あっさり天国へと旅立った。

 若き日の栄光のみならず、豊富な成長力も示しながら、道半ばでの別れがつらくてならない。しかし、長い直線を気丈に乗り切った姿は、いつまでもベテラントレーナーの、そして、ファンの胸に生き続ける。