サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ディアチャンス

【2007年 マーメイドステークス】千載一遇のチャンスに蠢動する純真なマーメイド

 2歳10月の京都(芝1400m)で競馬場に初登場したディアチャンス。3着に敗れたとはいえ、勝ち馬がスイープトウショウ(秋華賞、宝塚記念、エリザベス女王杯など重賞を6勝)、2着もアグネスラズベリ(函館スプリントS)というハイレベルな組み合わせだった。

 ジャックルマロワ賞などG1を5勝したタイキシャトルが父。母マルカムーンライト(その父マルゼンスキー)は未勝利だが、その全兄にダイイチオイシ(函館3歳S)がいる。平地で5勝したうえ、障害を2勝ちしたワンダーフルフィルは同馬の半兄。HBA10月市場(当歳)にて900万円で落札された。

「ほんと素直でかわいい馬でした。もともと乗り味も良く、大きな期待をかけていましたよ。ただ、若いころは体質が繊細。悩みは飼い食いが細いことでしたね」
 と、清水出美厩舎にて持ち乗りで手掛けた土屋均調教助手は振り返る。かつての担当馬にはアイポッパー(ステイヤーズS、阪神大賞典)もいるが、深い愛着を寄せた思い出の一頭である。

 2戦目の京都(芝1600m)を順当に勝ち上がり、阪神JF(18着)にも駒を進めた。勝負のタイミングは先と見て、7か月間のリフレッシュ。だが、一戦ごとに体を減らし、500万クラスを5連敗する。さらに半年間の休養を経て、京都の芝1600mでハナ差の2着に健闘。続く1800mを鮮やかに差し切った。

「当時も輸送は苦手。だから、トレセンから近い京都は好都合でした。非力だっただけに、直線に坂のないコースが向く。有松特別もアタマ差の2着と進境を見せましたが、函館での滞在できっかけがつかめましたよ」

 遊楽部特別、駒ヶ岳特別と一気に連勝。格上挑戦したクイーンSでも7着に食い下がった。
 コンスタントに使い込める態勢が整った一方、まだ控えめな攻めに止めていた。5歳10月の堀川特別でようやく3勝目をマーク。この間に3着が5回もあった。

「札幌での2戦は不利な外枠。芝1500メートルは特殊なコースですからね。堀川特別では1番枠が当たり、『今度はいけるかも』って思いました。ようやく理想的な競馬ができましたよ。ようやく中身がしっかりし、坂路だけでなく、馬場での追い切りもこなせるようになりました」

 以降も堅実に成績をまとめ、6歳5月のエメラルドSで準オープンを卒業。マーメイドSでも2番人気(単勝4・4倍)の支持を集めた。ここまで阪神では未勝利だったが、同馬向きの良馬場に恵まれた。

 シェルズレイがハナを主張し、ハイラップを刻むなか、すっとインの中団を確保する。コースロスなく追走でき、手応えも十分。直線であっさり抜け出した。騎乗した武豊騎手も、こう満足げに笑顔を浮かべる。

「すべてイメージ通り。初の騎乗だったけど、とても乗りやすいね。経験が少ない2000mも大丈夫だった。ようやく完成の域に入ってきたところなんだろう」

 クイーンS(3着)や札幌記念(4着)でも見せ場をつくる。エリザベス女王杯(8着)、愛知杯(8着)と歩み、惜しまれつつ繁殖入りした。

 マーメイドSがやってくるたび、千載一遇のチャンスに蠢動する姿が蘇えってくる。ベストミックス(1勝)、マテンロウエール(2勝)以外に勝ち上がった産駒に恵まれなったものの、新たな夢は孫世代が継承していく。