サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
デスペラード
【2014年 京都記念】孤高の無頼漢が奏でた心に響くバラード
イーグルスの名曲と同様、心に響く競走生活を送ったデスペラード。その素顔は、まさに「ならず者」だった。管理した安達昭夫調教師も、荒々しい気性に泣かされたと振り返る。
「イーグルスは好きですよ。カーオーディオには『ホテル・カリフォルニア』が入っています。でも、『デスペラード』は聴きません。がぶりと噛み付かれたときの強烈な痛みが蘇ってきますので。にんじんをあげようとすれば、口を目一杯に開いて迫ってきますからね。何度も恐ろしい目にあっています。飼い葉をつけるのが他馬より遅れたりしたら、もう大暴れ。馬房の壁をバンバン蹴って、なかなか怒りが収まりません」
ヴィクトワールピサ(ドバイワールドC、有馬記念、皐月賞)を筆頭に、スーパーホースを送り出しているネオユニヴァースが父。母マイネノエル(その父トニービン)は1勝のみに終わったが、同馬の半兄にマイネルナタリス(2勝)、半弟にはロジサンデー(現4勝)ら。祖母マイネキャロル(1勝)がブライアンズタイムの産駒であり、日本を代表する優秀な血が重ねられている。セレクトセール(1歳)にて1250万円で落札された。
「坂東牧場での育成時より、バランスの良さは目立ちましたよ。皮膚が薄く、上品なイメージ。血統的にもターフランナーに思えました。ところが、外見に反し、ゴトゴトした歩様が特徴です。3歳1月の新馬(京都の芝1600mを14着)の結果を踏まえてダート路線へ。想像以上の適性を示してくれましたね」
3戦目の京都、ダート1800mで4馬身差の快勝を収めると、阪神の500万下(ダート1800m)も連勝。その後は馬込みを嫌がる傾向が強まり、末一手のレース運びが定着する。
「自分のペースで追走できないと。かかることはありませんが、中途半端に押したらやめようとする。どこかで引っ張ってもダメなんです」
そんななかでも、着々と破壊力に磨きをかけ、4歳1月の1000万条件(京都のダート1900m)、雅Sと立て続けに追い込み勝ちを決めた。東海Sでも4着まで脚を伸ばしている。
「ひと息入れたことで、宮崎S(10着)以降の3戦は、体調は良かったのに気持ちが目覚めてこなかった。だから、あえて間隔を詰めて刺激を与えてみたんです。そのなかでミルコ(デムーロ騎手)の『芝のほうがやれる。距離は長くても大丈夫』との意見にも後押しされ、進むべき道が見えてきました」
最後方から大外を突き抜け、八坂Sを快勝。3歳春の毎日杯(14着)以来となった芝にもかかわらず、レースの上がりを1秒4も凌ぐ32秒8の豪脚を繰り出している。同年のステイヤーズSは、3コーナー手前から早めに進出して3着を確保した。
万葉Sで直線一気の差し切り勝ち。スタミナ優先の消耗戦となるなか、阪神大賞典もメンバー中で最速の決め手(3ハロン36秒6)を駆使し、ゴールドシップの2着に食い込む。天皇賞・春(9着)に続き、目黒記念も9着に終わったが、後方待機策では明らかに展開が不向きだった。
夏場の放牧後は、細化した馬体の回復に努めながら、京都大賞典(10着)、アルゼンチン共和国杯(6着)と歩んだ。使われつつ状態がアップ。寒い季節に良績が集中しているタイプだけに、調教の動きもぐんと鋭くなってきた。
単勝3・0倍の1番人気に推され、ステイヤーズSへ。あっという間に突き抜け、後続に3馬身半差の完勝だった。有馬記念は7着だったが、前が詰まって脚を余した結果である。
京都記念はジェンティルドンナ(6着)をはじめ、好メンバーが揃っていたうえ、距離不足と見られていた。6番人気(単勝34・3倍)に甘んじる。ただし、意表を突く逃げの手に出て、スタート直後から場内を沸かせた。しかも、ゴールまで堂々と主役を演じ切ってしまう。いったんまくられたものの、持ったままで慌てず、ラストで盛り返して後続を完封した。会心の勝利に、すっかり気が合うパートナーとなっていた横山典弘騎手は、こう満足げに笑みを浮かべる。
「ゲートでは、なんとか前へ行ってくれと願っていた。この馬に乗り始めてから、いつかこんなレースをしようと思っていたんだ。気難しいところがあって、手ごわい個性だが、馬とケンカせずにリズムを守れた結果だよ」
天皇賞・春(17着)以降は3連敗を喫したが、6歳時もステイヤーズSで一変し、きっちり差し切った。だが、右前肢に浅屈腱炎を発症。このレースがラストランとなった。
種牡馬入りしたものの、繁殖に恵まれず、3年の供用で引退。功労馬となり、現在は東京大学の研究牧場で繋養されているが、いつまでも破天荒なパフォーマンスは色褪せない。愛すべき無頼漢よ、いつまでも元気でと祈りたい。