サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ディオスコリダー

【2017年 カペラステークス】未完の大器が演じた荒々しくも神がかった走り

 前半2ハロン目から10秒8、11秒2という激流が刻まれた2017年のカペラS。それを難なく跳ね除け、大外を突き抜けたのがディオスコリダーだった。未完成な段階にある3歳ながら、初のタイトルに手が届き、さらなる飛躍は確実に思われた。

「陣営からは特殊馬具の効果があり、折り合いが良くなったと聞いていましたよ。じわっと運ぶことができました。パワーもあり、自ら動いてねじ伏せてしまった。強い競馬でしたね。レース前はテンションが高く、精神的に課題を残す現状だけに、いずれは安定して能力を発揮できるようになるでしょう」
 と、初騎乗だった津村明秀騎手も声を弾ませた。

 父カネヒキリはJCダート2回をはじめ、ダートG1に7勝。ミツバ(川崎記念、マーキュリーC2回)、ロンドンタウン(コリアC、佐賀記念、エルムS)らとともに父の名を高めた一頭である。祖母レースカムがスキャン(米G1を2勝、種牡馬)の全妹であり、母エリモトゥデイ(その父ワイルドラッシュ、未勝利)の兄弟にバアゼルキング(6勝)、ダノンスパシーバ(5勝)ら。テイエムナナヒカリ(2勝)は同馬の半兄にあたる。

 HBAサマーセール(1歳)にて820万円で落札。高橋義忠調教師は、出会った当時より購買金額をはるかに上回る魅力を感じ取っていたという。

「もともとカネヒキリ産駒らしい好馬体。1歳秋には気候がいいawajiトレーニングセンターに移り、順調に乗り込みが進行しました。5月に入厩した当時から、体力面に余裕があり、楽々と動ける。だんだん一所懸命になりすぎ、抑えるのに苦労するようになったとはいえ、非凡な素質には、ずっと自信を持っていたんです」

 大きな夢が託されて、ディオスコリダー(スペイン語で神の走り)と名付けられ、翌月には阪神の新馬(ダート1200m)を楽々と逃げ切る。しばらくはソエを抱えながらも、昇級3戦目の冬桜賞を豪快に差し切った。

「3歳前半は国内に目指す目標がなく、オーナーの理解もあって、ドバイ遠征(マハブアルシマールを7着、ゴールデンシャヒーンは11着)を選択。まだ幼さが前面に出ていましたから、世界のトップクラスが相手だに厳しい結果は覚悟していました。ただし、決して無駄な経験ではなかった。馬のメンタルが強くなったと思います。慣れない地でも、逆に落ち着いて調教でき、外国人スタッフの穏やかな扱いを目にしたりして、こちらも将来につながるヒントを得られましたね」

 帰国後は慎重な状態把握に努めたうえ、岩室温泉特別(3着)、苗場特別(1着)、北陸S(3着)と前進する。西陣Sは2馬身半差の快勝。レース運びに幅が出て、中団から繰り出した上がり(3ハロン34秒8)は次位をコンマ4秒も凌ぐ鋭さだった。

「だいぶ道中での我慢が利くようになり、着実な成長を感じましたよ。放牧先の宇治田原優駿ステーブルでも、しっかりメンテナンス。肉体面の充実も明らかでした。それなのに、ドバイゴールデンシャヒーンを目指していた途上で右ヒザを骨折してしまい、すっかりリズムが狂いましたね。結局、ポテンシャルを発揮できず、無念でなりません」

 4歳時にクラスターC(4着)、エニフS(10着)と歩んだところで、今度は右蹄骨を骨折し、早すぎる引退が決まった。生まれ故郷の前谷牧場でスタリオン入り。いまのところ、場内の繁殖のみしか種付けを行っていないが、評価を覆す逸材の誕生を期待したい。