サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

テイエムジンソク

【2017年 みやこステークス】神が与えた変幻自在なフットワーク

 阪神のダート1800mで迎えたデビュー戦は、外にもたれる若さを見せて6着に終わったものの、続く同条件をあっさり勝ち上がったテイエムジンソク。その母マイディスカバリーはフォーティナイナーの産駒であり、ダート1000mで3勝を挙げた。同馬の叔父母でJRAを勝ち上がったのは1頭のみしかいないが、アメリカの重賞を6勝した4代母マイジュリエットに連なるファミリーである。長きに渡ってサイアーランキングの上位を賑わしたクロフネが配されて誕生した。

「血統的にも、もともとダートでの活躍を期待していたとはいえ、1歳で依頼を受けて以来、ずっと肉が付かないのが悩み。成長は遅めでした。テイエム牧場でもゆっくり乗り込まれ、3歳2月になって入厩。動きは目立ちませんし、慎重に使い出しましたよ」
 と、管理した木原一良調教師は若駒時代を振り返る。

 京都の500万条件でも、11着より2着へと一気に着順を上げた。半年間、リフレッシュされ、11月の京都(ダート1800m)をいきなり勝利。昇級後も5着、3着と順調に前進する。大津特別は3馬身差の楽勝だった。

「精神面も幼くて。常歩ができないほど、激しくイレ込んでしまう。通常のメニューを消化するのにも、地下馬道で暴れたり、ひと苦労。デビュー前の追い切りから竹之下くん(智昭騎手)に跨ってもらい、コミュニケーションを図ってきました。そんな状況でも、実戦で味があるんです。想像以上の勝負根性に驚かされましたね」

 放牧先でも食べたものが実にならず、桃山S(8着)や上賀茂S(10着)の当時は体を戻しながらの調整。それでも、好位追走の安定したレース運びから、東大路Sをきっちりと差し切った。花のみちS(2着)に続き、KBC杯(3着)も堅実に上位に食い込む。

「マッチョなタイプが揃う上級クラスとなれば、パドックでは見劣ります。線の細さが目立ち、これで大丈夫かなと、その都度、心配していました。でも、少しずつたくましくなり、小倉へ輸送してもプラス体重。脚抜きがいい馬場を得意としていても、パワー比べにだって対応できるようになってきたんです」

 観月橋S(4着)、堺S(3着)、初夢S(2着)、北山S(2着)、伊丹S(3着)と足踏みが続いたが、いずれも厳しい展開。5歳時の東大路Sで4馬身差の快勝を収め、いよいよ本格化を示す。

「あの一戦からバトンを受け継いだ古川吉洋騎手も、非凡な能力を感じ取り、調教から丁寧に接してくれました。見違えるほど筋肉が張り出し、着々と体質強化。楽々と動けるようになり、気持ちにも余裕が出てきましたよ」

 大沼Sを4馬身差、マリーンSも5馬身差のワンサイド勝ち。レコード決着となったエルムSは2着に惜敗したが、みやこSで初のタイトルを奪取がかなう。すっと4番手に付けると、楽な手応えでコーナーから動き、早めに先頭へ。後続に2馬身半差を広げる完勝だった。

「チャンピオンズC(クビ差の2着)の走りは生涯忘れられません。流れに左右されず、ますます立ち回りが上手に。ほんと頭が下がります。高いレベルで状態が安定し、負けられないと見ていた東海Sでしたが、重賞で圧倒的な人気(単勝1・3倍)に推され、胃がきりきり痛みました。それなのに、すっかり馬が自信を付けていて。悠然とハナに立ち、平均ペースに持ち込むと、マークされても身上の粘りを発揮できた。強い内容でしたし、あんな爽快な気分を味わうのは初めてでしたね」

 ハイペースとなったフェブラリーSは12着。これでリズムが狂い、平安S(6着)、帝王賞(6着)と期待を裏切る。日本テレビ盃(4着)をステップにチャンピオンズC(14着)に臨んだものの、左前に屈腱炎を発症。テイエム牧場日高支場でスタリオン入りした。

 全30戦(9勝)を戦い抜き、連対率50%の好成績を残したテイエムジンソク。G1には手が届かなかったとはいえ、自由自在な「神足」で強敵を翻弄した。種牡馬としては成功せず、2022年シーズンで引退したが、いまでも懸命に魂を燃やす姿が生き生きと蘇ってくる。