サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ディープブリランテ

【2011年 東京スポーツ杯2歳ステークス】最高峰へと放つ衝撃の煌めき

 稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも日本競馬を牽引したディープインパクト。ラストクロップのオーギュストロダンまで数々のスターホースを量産しているが、コントレイルでクラシック3冠を制し、その魅力を知り尽くしている矢作芳人調教師も、2年目の産駒にあたるディープブリランテには深いインパクトを受けたという。

「父らしい素軽いバネだけでなく、力強さやスタミナも十分。スピードとともに、重厚さも兼ね備えた母系が生きています。それに真面目すぎるくらいの性格で、普段はまったく手がかからない。これまでに出会った一流馬とはまったく違う個性でしたね。果てしない可能性を感じさせましたし、あれだけ自信を持ってクラシックに挑むのは初めてでした。うちの厩舎はNHKマイルC路線だけというイメージも、払拭してくれると信じていましたよ」

 母ラヴアンドバブルズ(その父ルーソヴァージュ)は、クロエ賞(G3)をはじめ、フランスで3勝をマーク。同馬の全姉がフラワーCを2着したハブルバブル。曾祖母の仔に菊花賞馬のザッツザプレンティがいる。

「セレクトセール(当歳市場にて3100万円で落札)の取り引き馬。すばらしいバランスに惹かれ、他のオーナー用にと競ったのですが、手が届かなかった。ずっと気になっていたところ、購買したのがノーザンファームと知り、預託先が決まっていないのならばと立候補したんです。幸せなことに快諾してもらえました」

 サンデーサラブレッドクラブ(募集総額は4400万円)にラインナップされた同馬は、ノーザンファーム空港で順調に乗り込まれ、めきめき頭角を現す。

「成長力には目を見張るものがありましたね。競走時に450キロくらいかと想像していたのに、500キロ程度に育つとは。しかも、一度もスタイルが崩れたことがない」

 2歳の8月末、栗東へ移動。直後の調教に跨った川須栄彦騎手は、「初めて味わう感触。こういう馬がクラシックへ行くんですね」と驚きを隠そうとしなかった。

 10月の京都、芝1800mに初登場。出遅れたものの、岩田康誠騎手にあせりはなかった。大外を悠々と追い上げ、5馬身差の圧勝を演じる。一気にハードルを上げ、東京スポーツ杯2歳Sへ駒を進めた。ここでは不良馬場に配慮しての先行策。しきりに行きたがりながらも、後続を3馬身も置き去りにする。

「2戦ともソエを気にしていましたし、右前には軽い骨瘤も出ていた。まだ7、8分程度の仕上げでしたよ。理想的なかたちで賞金を加算でき、ノーザンファームしがらきでたっぷり力を蓄えることができました」

 共同通信杯より再始動。スローペースに押し出されてハナを切り、ゴールドシップの2着に終わる。勝負どころでごちゃつくのを避け、早めに先頭へ立ったスプリングS(2着)。格好の目標となり、グランデッツァの強襲にあう。

「折り合い面の課題を突きつけられましたが、決して力負けだとは思わない。操縦性を向上させようと、クロスノーズバンドを着用。その効果もあり、以降の追い切りでは乗り手の思いどおりにコントロールできました」

 皐月賞も無念の3着。だが、好位で我慢が利き、力の要る馬場を最後まで踏み止まった。次の大目標に向け、陣営も、岩田ジョッキーも心をひとつにし、懸命な仕上げを施す。

「ダービーの3週前、岩田騎手が騎乗停止になったのですが、土日も含めて毎日、乗せてほしいと申し出があったんです。私はスタッフを信頼していますし、これまでの担当助手にもプライドがある。これは賭けだと思ったものの、任せてみることにしました。実は、1週前に軋轢があり、彼を怒鳴りつけてしまった。でも、馬と相談しながら調教を付けてくれ、さらにコンタクトが良くなっている実感がありましたよ。これ以上のない最高の状態が整いました」

 そして、誰もが夢見る競馬の祭典へ。苦い敗戦を味わったぶん、馬も勝利への集中力を高めていた。3番手をリズム良く追走し、満を持して先頭へ。ラストはフェノーメノが際どく迫ってきたが、ぎりぎり凌ぎ切った。

「レース前、ジョッキーには感覚を大切に乗ってくれと告げました。スタート良く飛び出し、一時はハナへ行ってしまうのではと心配しましたが、1コーナーでポジションが決まり、安心しました。直線は早すぎる抜け出しに、『岩田、持たせろ』と叫び続けてしまいましたね。差はわずかでも、ゴールの瞬間、勝ったと確信しました。ダービーに関しては、特別な意識はないと話していましたが、やはり重みがあります。感無量でしたよ」

 さらに豊かな未来が待ち受けていると思われたが、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(8着)がラストランとなる。菊花賞への調整過程で右前に屈腱炎を発症。早々と種牡馬入りが決まった。

 セダブリランテス(ラジオNIKKEI賞、中山金杯)、モズベッロ(日経新春杯)、ラプタス(黒船賞など重賞5勝)、エルトンバローズ(ラジオNIKKEI賞、毎日王冠)らが活躍しながら、年々、種付け頭数は減少。2023年シーズンで引退し、生まれ故郷のパカパカファームで余生を送ることとなった。それでも、イタリア語で「深く輝いて」との競走馬名どおり、磨けば磨くほど光度を増していったパフォーマンスは、いつまでも競馬史に精彩を放ち続ける。