サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
テイエムイナズマ
【2012年 デイリー杯2歳ステークス】永遠の少年が轟かせた猛々しき雷鳴
出遅れながらも向正面で一気に先頭へ進出し、2012年のデイリー杯2歳Sを押し切ったテイエムイナズマ。4コーナーでは外へ逃げたうえ、入線後に放馬するシーンもあったが、粗削りなぶんも強さが際立つパフォーマンスだった。
持ち乗りで情熱を注いだ花田秀雄調教助手は、当時のキャリアがまだ5年。人馬ともに初となった重賞制覇の瞬間をこう振り返る。
「こんなに早くタイトルを獲れるなんて。はらはらしたぶん、うれしさも格別でした。気持ちのコントロールに課題があり、レース前はどうしてもテンションが上がります。馬体を併せると、きつくハミを噛んでしまいますしね。ふわっとスタートさせ、無理して型にはめなかったのが勝因。自分のペースさえ守れれば、いい脚を長く使えます」
後にキタサンブラックを送り出したブラックタイドが父。ディープインパクトの全兄という血統が買われ、同期の新種牡馬のなかでは最も多くの繁殖を集めた。同馬の活躍により、ファーストシーズンサイアーチャンピオンに輝いている。母はアメリカ生まれのクラスター(その父ダンジグ)。同馬の半兄にチェネリーSなど米6勝のアーバンウォリアーがいる。HBAセレクションセール(1歳)にて920万円で落札。テイエム牧場の門別育成場で順調に乗り込まれ、2歳6月に栗東へ移動した。
「大きなフットワークが特徴。体感以上に速い時計が出てしまいます。ただ、当初は輸送の疲れもあり、トモが弱かった。なかなかダッシュが付かず、ゲート試験は3回続けて不合格でした。性格も怖がりです。ちょっとしたことでスイッチが入りがち。デビュー戦では、そんな若さに泣かされました」
小倉の芝1800m(5着)で競馬場に初登場。。スタンド前の発走だったため、パニック状態に陥り、ジョッキーを振り落とすほどだった。無事にゲートインしたものの、前半から力んでしまい、直線で失速した。
あっさり初勝利を挙げたのが、9月の阪神(芝1600m)。早めに動いても最後まで余力があり、1馬身半差の完勝だった。
「内弁慶なだけで、普段の調教は真面目。飼い葉もよく食べる健康的なタイプです。鍛えるごとに、どんどん状態がアップ。増加傾向にあった体重も、そのまま成長を表していました。もともと首周りはたくましかったのですが、付くべきところに筋肉が備わって、ぐんと重厚感が加わり、すごいパワー。密かに一発を狙っていましたね。内面が大人になり、抑えることを覚えたら、もっと大きなタイトルに手が届くと信じていたのですが」
京王杯2歳S(9着)以降、操縦性の難しさに泣かされ、成績は激しく上下動。それでも、皐月賞(6着)、ダービー(6着)、菊花賞(11着)と3冠レースに挑んだうえ、コンスタントに走り続けても、肉体的な消耗など感じさせなかった。
22連敗を重ねながら、5歳時に飛鳥Sを制し、確かな能力を証明。翌年は大阪城S、小倉日経オープンに優勝したほか、たびたび低評価を覆し、上位に迫った。8歳まで積み重ねたキャリアは実に45戦。苦節の道程だったぶんも、若き日に放った猛々しき雷鳴が忘れられない。