サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アロンダイト

【2006年 ジャパンカップダート】トップトレーナーが愛した荒々しきヒーロー

 ジェンティルドンナ(桜花賞、オークス、秋華賞、ジャパンC2回、ドバイシーマクラシック)を筆頭に、9頭ものG1ホースを送り出している石坂正厩舎。ダート戦線の代表格といえば、ヴァーミリアン(JBCクラシック3回、JCダート、フェブラリーステークスなどG1を9勝)の名がまず挙がるが、同馬に先駆けて頂点まで駆け上がった逸材にアロンダイトがいる。

 ジャパンC、サンクルー大賞を制し、凱旋門賞でも2着したエルコンドルパサーが父。パワーやスタミナを兼備した遺伝子であり、ヴァーミリアンも産駒の1頭だ。母キャサリーンパー(その父リヴァーマン)はフランスで走り、重賞での2着が2回。G1・アスタルテ賞でも3着した。同馬の兄姉にシースルオール(5勝)、タンザナイト(3勝、ダンビュライトの母)、アドマイヤダンサー(3勝)、クリソプレーズ(3勝、クリソライト、マリアライト、リアファル、クリソベリルの母)らがいる。愛オークス馬となった祖母リーガルイクセプションに連なる重厚なファミリー。キャロットクラブにて総額2800万円で募集された。

 アーサー王の伝説に登場するランスロットが愛した名剣「アロンダイト」と名付けられ、2歳10月に京都の芝2000mでデビュー。外にふくれて8着に終わる。続く同条件も出遅れが響き、11着に敗退。6か月間の立て直しを経て、5月の新潟ではダート1800mに目を向けた。豪快に追い込んで3着。精神的に粗削りな状況ながら、一気に未来が拓ける。

 東京のダート2100mで初勝利。しかも、後続に8馬身差を付ける圧倒的な内容だった。このレースより後藤浩樹騎手とコンビを組んだのだが、すっかり気が合うパートナーとなる。京都の500万下(ダート1800m)を鮮やかな差し切り。魚沼特別では逃げの手で後続を完封する。銀蹄Sで4連勝を決め、JCダートへと駒を進めた。

 いきなりの高いハードルだけに、7番人気に甘んじたが、ここでも堂々たるパフォーマンスを演じた。内ラチ沿いで脚をため、直線でもインへ。進路が開くと一気に勝負をかけ、あっという間に突き抜ける。

 会心の勝利に、後藤騎手はこう胸を張る。
「一戦ごとに強さを増し、スタッフも自信を持っていた。こちらもそれに応えられるよう、馬を信じて乗ったよ。トップクラスの様子をうかがいながら追走でき、直線も懸命に伸びてくれた。キャリアが浅いなかでも、これまでいろいろなレースをしてきたからね。それが大舞台につながった。すばらしい素材との巡り会いに感謝するしかない」

 だが、左前脚を骨折していたことが判明。シリウスS(4着)で復帰した矢先、再度の骨折を発症し、1年5か月もレースから遠ざかった。

 6歳時の東海Sを3着し、復調をうかがわせたものの、帝王賞(4着)やブリーダーズGC(3着)でも勝利に手が届かない。エルムS(6着)を最後に引退が決まった。それでも、空前の勢いで勝ち取った貴重な栄光は、いまでも競馬史に斬新な輝きを放ち続けている。

「底知れない可能性を見込んでいたのに、結局、未完成のままだった。改めて馬を育てる難しさを痛感させられた一方、学んだこともたくさん。大切な財産になっているよ」(石坂正調教師)