サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ハープスター

【2014年 札幌記念】北のターフに照り映える織女星の容色

 クラシック2冠に輝いた祖母ベガより連想され、こと座の一等星であり、織女星の別名が名付けられたハープスター。母のヒストリックスター(その父ファルブラヴ)は不出走だが、叔父にもアドマイヤベガ(ダービー)、アドマイヤドン(朝日杯FS、フェブラリーSなどG1を7勝)らが居並ぶ豪華な一族である。稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも日本競馬を牽引するディープインパクトが配されて誕生した。

 早くから豊富な体力を誇り、ノーザンファーム早来での育成は順調に進行。2歳6月には栗東へ移動した。1か月余りで態勢が整い、中京の芝1400mに初登場すると、いきなり父譲りの鋭い決め手が炸裂。断然人気にふさわしい楽勝だった。

 2戦目には新潟2歳Sを選択。最後方の位置取りとなったのにもかかわらず、直線は大外から突き抜けてしまった。その末脚は驚異的なものであり、レースのラスト3ハロンを1秒3も上回る32秒5の鋭さ。後に皐月賞を制するイスラボニータに3馬身の差を付けた。この時点で、翌春の大舞台でも本命と目されるようになる。

 2歳女王の座を狙い、阪神JF(2着)へ直行。ここでは首の上げ下げでレッドリヴェールに屈したが、勢いは圧倒していた。さらに力を蓄え、チューリップ賞へ。2着のヌーヴォレコルトを1秒0も凌ぐ33秒7の上がりで、2馬身半の決定的な差を付けた。

 単勝1・2倍の圧倒的な支持を集め、桜花賞に登場。18番枠を引き、出遅れてしまったものの、最後方で自分のリズムに徹する。4コーナーから外へと導かれ、ラスト32秒9の鋭さで馬群をひと飲み。レッドリヴェールも渋太く食い下がったが、ぐいとクビだけ前へ出て、栄光のゴールへと飛び込んだ。

 オークス(2着)も1・3倍の1番人気。だが、猛追しながらも、ヌーヴォレコルトにクビ差及ばず、あと一歩で2冠達成は果たせなかった。レース後、左前肢の蹄鉄が外れかかっていたことが判明している。

 3か月のリフレッシュを経て、札幌記念より始動。ここでは牡馬クラシック2冠に加え、有馬記念、宝塚記念(2回)などを制していたゴールドシップが待ち構えていた。いつも通りの待機策。しかし、小回りコースを意識して、早めに進出する。直線は2強が後続を離しての一騎打ち。懸命に脚を伸ばすチャンピオンホースを振り切り、ゴールに飛び込んだ。3歳牝馬の優勝は22年ぶりの快挙である。川田将雅騎手は、こう満足げに笑みを浮かべた。

「返し馬でやんちゃなところを見せましたが、それだけ元気があると前向きに捉えていました。前半のリズムが良く、3コーナーから動かしていっても、いい雰囲気でしたね。目いっぱいの仕上げでなくても、強い勝ち方。凱旋門賞へと期待がふくらみます」

 直線でよく伸びながら、凱旋門賞は連覇を達成したトレヴの6着。ジャパンCは故障馬のあおりを受け、5着止まりだった。4歳シーズンも世界にチャレンジ。京都記念(5着)をステップに、ドバイシーマクラシックへと駒を進める。ところが、状態が上がり切らず、8着に沈んでしまった。その後は懸命の立て直しが図られたが、右前に繋靭帯炎を発症。種子骨靭帯にも炎症が確認されたため、早すぎる引退が決まった。

 結局、手にしたG1の勲章は桜花賞のみに終わったハープスター。それでも、ラストの瞬発力は桁違いだった。長めから終いをきっちり伸ばす調教方法を確立し、数々の名馬を育てた松田博資調教師も、天才的な才能に惚れ込んでいた。

 なかなか産駒に恵まれないなか、ライラスター(3勝)が確かな能力を垣間見せている。繁殖としても、目覚ましい成功を祈りたい。