サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
パドトロワ
【2012年 キーンランドカップ】北の大地へ熱波を運ぶパワフルな王者
社台オーナーズの所属馬となり、総額2000万円にて募集されたパドトロワ。エンドスウィープの後継らしく、豊かなスピードを伝えるスウェプトオーヴァーボードが父である。母グランパドドゥ(その父フジキセキ)は、16戦目にして中日新聞杯に優勝。息長く活躍するのが一族の特長である。祖母がローズSに勝ち、高松宮杯でも2着したスターバレリーナであり、同馬の叔父母にスパルタクス(5勝)、アンドゥオール(東海S、マーチSなど9勝)、ステレオタイプ(ロゴタイプの母)、フレンチウォリアー(3勝、北海道2歳優駿を3着)らがいる。
社台ファームで順調に乗り込まれ、2歳6月、札幌競馬場に入厩。2週間後にはゲート試験に合格したものの、キャンターの速度を上げるとフォームがばらばらになってしまう状況だった。いったん放牧を挟み、10月に栗東へ移動した。
「デビュー当初も全身を使えず、歩様がゴトゴトしがちでした。のんびりした性格で、この馬だけ20分は長めに運動させていても、なかなか絞れない。気持ちも幼く、オン・オフが極端。実戦では他馬を怖がり、しきりに行きたがるくらいでした。すっと行ける反面、かつてはいざとなって怯むのが課題でしたね」
と、鮫島一歩調教師は若駒当時を振り返る。
11月に京都(芝1600m)で迎えた新馬戦は、前半からかかったぶん、3着に敗れたが、距離を短縮した12月の阪神(1200m)では狙いどおりに初勝利を収める。
軽い挫跖でひと息入れた後、3月の500万下(阪神の芝1200m)を楽に抜け出すと、橘Sは3着。NHKマイルC(16着)でも、超ハイペースを好位で追走する脚力を見せた。
「肉体的にはずいぶんタフに。中1週での東京遠征に加え、直前に坂路で52秒台をマークして、プラス10キロだったのには驚きましたよ」
さくらんぼ特別で3勝目。1着同着だったとはいえ、きつい展開やハンデ差を考えれば高く評価できる内容だった。秋シーズンは準オープンを6着、3着。骨瘤による休養を経て、アクアマリンS(7着)より再スタートする。
心斎橋Sに続き、オーストラリアTも連勝。函館スプリントSは6着だったが、追い不足が響いた結果だった。UHB杯を完勝すると、キーンランドSでクビ+ハナ差の3着に健闘する。さらに、スプリンターズSを堂々の2着。暮れには香港スプリント(14着)にも挑戦した。
「香港では状態が本物でなく、しっかり攻められなかった。レース後に検査をしたら、副管骨に軽度のひびが入っていました」
春雷S(7着)以降の3戦は不本意な結果に終わったが、一戦ごとに体が締まり、筋肉の張りを増してきた。初の直線競馬にも難なく対応し、アイビスサマーダッシュで念願の重賞を制覇する。抜群の二の脚を駆使して3番手を追走すると、ゴール前では手綱を抑える余裕がありながら、1馬身半も抜け出した。
「これまでの経験が生き、調教プランも立てやすくなり、またパワーアップした実感がありましたね。涼しい函館競馬場に滞在させた効果があり、いいころの柔らか味も戻ってきた。新潟への往復を難なくクリア。函館はフェリー乗り場まで近いので、案外、負担は少ない。輸送で10キロは減ると見込んでいたのに、前走比でマイナス2キロでしたから」
函館に戻ってからも好調子をキープ。果敢に先手を奪うと、自ら淀みのない流れを演出した。直線で後続を振り切り、1番人気に推されたダッシャーゴーゴーの猛追をハナ差だけ凌いでゴールに到達。サマースプリントシリーズのチャンピオンに輝いた。持ち味をフルに引き出した安藤勝己騎手は、こう安堵の笑みを浮かべる。
「最後は首の上げ下げになり、際どい決着だったから、正直、負けたんじゃないかと心配した。でも、パタッと止まる馬じゃない。迷わず早めにスパートしたのが正解だったね。フットワークが滑らかだったし、ますますデキは上向き。この状態を保てさえすれば、もっと上を目指せる」
レコード決着に息が入らず、スプリンターズSは8着。京阪杯も出遅れて15着に沈んだが、ゆっくりオーバーホールさせたことで、再び調子を上げていく。5か月ぶりとなった京王杯SC(14着)を使われ、6歳時も函館へ渡る。昨夏の勢いを取り戻していないと見られ、函館スプリントSは単勝6番人気に甘んじていたが、アタマ差だけ後続を振り切り、力強くゴールを駆け抜けた。
真夏の電撃戦で観衆を魅了するステップを披露したパドトロワ(バレエ用語で3人での踊り)。しかし、以降は伸びやかなフットワークが影を潜め、9戦続けて二桁着順に甘んじた。7歳時のキーランドC(12着)を走り終えると引退が決まり、レックススタッドで種牡馬入りすることとなった。
産駒は希少ながら、ダンシングプリンス(JBCスプリント、リヤドダートスプリントなど重賞4勝)を輩出した。2022年に急逝したのが惜しまれるが、ダンシングプリンスがサイアーラインを継承。さらなる血の発展を期待したい。