サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

バクシンテイオー

【2016年 北九州記念】根気強い積み重ねに後押しされた渾身の一撃

 セレクトセール(当歳)にて2100万円で落札されたバクシンテイオー。長年に亘って日本のスプリント界を支えたサクラバクシンオーが父。母アウトオブザウィム(その父サンデーサイレンス)は未勝利ながら、ダートでG1を7勝したカネヒキリの半姉にあたる。祖母の全兄に種牡馬として多くの名馬を送ったシルヴァーデピュティ。繁栄しているファミリーの出身である。

 気性の若さやソエが影響して、美浦に入厩したのは3歳の2月になってから。ゲート試験の合格後は放牧を挟んだうえ、丁寧に仕上げられる。5月の東京(芝1400m)でデビュー。既走馬相手に直線一気の差し切りを決めた。続く同条件を6着して半年間の休養へ。出走後の反動が大きい状況に配慮して、間隔を空けながらキャリアを重ねた。

 4歳春の伏拝特別で2勝目を上げる。ただし、操縦性は粗削りであり、まだ体質もデリケートだった。5歳シーズンを迎え、ようやく大牟田特別で惜敗にピリオドを打つ。ただし、高額条件の速い流れのほうが折り合いが容易。昇級2戦のフィリピンTを快勝すると、新潟日報賞も連勝。晴れてオープン入りを果たした。

「もともと晩生と見ていた馬が、みるみる充実。ただし、依然として装鞍所からパドックにかけてテンションが上がり、発汗が目立ちました。人との関係性を築くべく、根気強く矯正を図る必要がありましたね」
 と、堀宣行調教師は振り返る。

 タンザナイトS(3着)、シルクロードS(5着)、スワンS(4着)などで見せ場をつくりながらも、展開に泣くケースが多々。7歳時のバーデンバーデンC(3着)まで10連敗を喫してしまった。

 8番人気(単勝21・7倍)の低評価に甘んじていた北九州記念。ただし、滞在競馬が向く個性であり、小倉での調整も3回目となるだけに、すっかり環境にも馴染んでいた。最後方の位置取りとなっても、じっくり構えるのは作戦通り。直線で大外に持ち出すと、抜群の伸びを披露した。断然人気のベルカントを瞬時に交し、1馬身の差を付けてゴールに飛び込んだ。みごとに持ち味を引き出した藤岡康太騎手は、こう満面の笑みを浮かべる。

「この馬向きのハイペースになると読んでいたんです。しっかり脚をためられ、勝負どころの手応えも十分。それにしても、すばらしい切れ(ラスト3ハロンは次位をコンマ6秒も上回る34秒2)。陣営がベストの態勢を整えくれたおかげです。小倉で初めて重賞に勝て、うれしくてなりません」

 堀ステーブルにとっても、これが初となる小倉でのタイトル獲得。全10場のうち、重賞が未勝利なのは新潟を残すのみとなった。現在、JRA重賞を78勝している敏腕チームにあっても、プロらしい仕事が光った一戦である。

 山あり谷ありの競走生活ながら、キャリアを重ねるごとに強さを増したバクシンテイオー。8歳の北九州記念(17着)まで通算30戦を懸命に駆け抜けた。味わい深いキャラクターであり、いつまでも心にとどめたい名優といえよう。