サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
パッションダンス
【2015年 新潟記念】晩夏に燃え盛る勝利へのパッション
ファーストクロップから4頭のG1ウイナーを送り出し、トップサイアーの地位を確固たるものにしたディープインパクト。そのなかにあって、パッションダンスも優れた身体能力を受け継いだ晩生の大物だった。
母キッスパシオン(その父ジェイドロバリー)は3勝をマーク。同馬の半姉にローズSなど重賞4勝のアドマイヤキッスがいる。セレクトセール(当歳)にて9000万円で落札された。
「オーナー(金子真人氏)より依頼を受けた1歳夏のころでも、骨格はしっかりしていましたよ。ただ、中身が伴ってくるのは遅く、ノーザンファーム早来で大切に育てられました。2歳の10月には入厩したのですが、体の緩さが目立ち、なかなか調整が軌道に乗らなくて。追い切ると、がたっと反動が出てしまうんです。なんとか出走態勢が整ったのは、新馬戦が終了する間際でした」
と、友道康夫調教師は若駒当時を振り返る。
プールを併用しながら、馬なり中心のメニューで仕上げ、2月の阪神(芝2000m)でデビュー。そんな状況にもかかわらず、好位からあっさり抜け出した。たっぷり間隔を開け、京都新聞杯へ。コンマ2秒差の6着で入線する。
「前が詰まるちぐはぐな競馬。上りでは歩様が乱れていて、右トモの骨折が判明しました。症状自体は軽く、いったん12月に帰厩したのですが、今度は爪に不安が。確かな素質を感じていても、我慢の時期が長かったですね」
再度の放牧を挟み、結局、1年2か月のもブランク。6月の中京、芝2200m(コンマ1秒差の5着)を経て、新潟の芝2400mで順当に2勝目をつかんだものの、依然として体質に弱さが残り、さらに4か月間、疲れを癒す必要があった。
この休養で見違えるように充実。きちんと負荷をかけられるようになった。再度山特別を快勝すると、サンタクロースハンデキャップもハナ差の接戦を凌ぎ切る。小倉大賞典(5着)、中日新聞杯(4着)と、重賞でも安定した走りを続け、新潟大賞典では初のタイトルを奪取した。
「直線が長く、のびのびと走れる新潟はベスト。粘り強い脚を生かせます。性格的にはとても素直ですし、まったく手がかからない優等生。ようやく体も大人になってきましたよ」
ところが、鳴尾記念(6着)を走り終え、脚元に炎症を発症。1年6か月間、レースから遠ざかることになる。慎重な仕上げに終始していても、復帰後も中山金杯(4着)、中日新聞杯(4着)などで見せ場をつくった。
そして、新潟記念では2つ目の重賞制覇がかなう。当日の降雨で馬場は渋っていたが、荒れた内目を回ってもリズムは上々。直線で外へ持ち出すと、じりじりと差を詰め、きっちりと差し切りが決まった。
「そう切れない反面、大崩れしないレースセンスの持ち主。力が要る馬場は大歓迎です。小倉記念(6着)を叩き、ぐんと調子を上げていましたしね。しっかり負荷をかけられる態勢が整ったことで、ダートもこなせそうなスタイルに。ディープ産駒らしからぬ筋肉が備わったんです。キャリアが浅いですし、どこかでチャンスがあると信じていたとはいえ、すでに7歳となっていましたので、喜びは格別。懸命な姿に感動しました」
8歳にして新潟大賞典を2馬身差で快勝する。結局、9歳時は出走できなかったとはいえ、全22戦を懸命に走り抜けた。引退後は乗馬となり、幸せに余生を送っている。
陣営の情熱に応え、華麗なステップで栄光のゴールへと邁進したパッションダンス。新潟の2000mを語るとき、真っ先にその勇姿が浮かび上がってくる。