サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ハートレー
【2015年 ホープフルステークス】彗星のようにターフを舞うフライングホース
稀代のスターホースであり、スタリオン入りしてからも史上最速のスピードで勝ち鞍を量産したディープインパクト。米G1・アルシバイアディーズSを制したウィキッドリーパーフェクト(その父コングラッツ)に配されて誕生したのが、2015年のホープフルSの覇者となったハートレーである。NASAのディスカバリー計画において用いられた探査機ディープインパクトが観測した太陽系の彗星名がハートレー。サンデーサラブレッドクラブにて総額1億円で募集された。
「優秀な繁殖と柔軟性やバネに富んだトップサイアーらしさがマッチして、1歳で出会った当初でも垢抜けたシルエット。ノーザンファーム空港での育成段階でも、抜群な動きが評価されていました。2歳8月に手元に来た直後からスケールの大きさが伝わってきましたね」
と、手塚貴久調教師は若駒時代を振り返る。
以降も大切に育てられ、ゲート試験の合格後はNF天栄でいったんリフレッシュ。帰厩後は楽々とメニューを消化する。11月の東京(芝2000m)に臨むと、天性の瞬発力を駆使して鮮やかに抜け出した。
「まだ自分がなにをしているのが理解していなくて、前の馬が動いたのに合わせ、付いていった感じでしたよ。レースから上がってきたら、すぐに息が整い、堪えた様子などまったくなかった。これは底知れないと思わせましたよ」
クラシックを意識して、2戦目はホープフルSに挑む。ここでもポテンシャルの違いを見せ付けた。前走と同様、スタートは遅かったが、4コーナー手前から追い上げてきたロードクエストと併せて進出を開始する。ラストであっさりと振り切り、栄光のゴールに飛び込んだ。騎乗したヒュー・ボウマンは「フライングホース」と卓越した乗り味を表現した。
「ダイナミックなフットワーク。トモに緩さを残しながらも、関節の可動域が広く、踏み込みすぎるくらいです。自信はありましたが、いとも簡単に高いハードルを乗り越えてしまうとは。夢はふくらむ一方でしたね」
ところが、共同通信杯では、思わぬ試練が待ち受けていた。あっさり後退し、9着に敗れてしまう。ただし、浅いキャリアのなか、ペースや馬場状態などが影響し、力を出し切っていないのは明らかだった。
「普段は無駄なことをせず、学習能力が優秀な反面、自我の強さを垣間見せ始めました。過信があったわけではないのですが、状態の見極めに関しても不十分だった結果。あの一戦をきっかけに、すっかり心身のバランスが崩れてしまった。馬の難しさを改めて痛感されられました」
皐月賞は回避。左前肢の骨折が判明した。福島TVオープンは鼻出血により出走を取り消し。去勢手術を施され、再起を目指したものの、なかなか状態が整わない。1年10か月の沈黙を破り、ディセンバーS(5着)へ。しかし、メトロポリタンS(3着)、丹頂S(10着)、ディセンバーS(5着)と成績は激しく上下動した。
結局、6歳2月の京都記念(11着)がラストランとなる。歩様のぎこちなさが際立った原因は、頚椎の神経が圧迫されることによる腰萎(いわゆる腰ふら)だと判明。競走能力喪失の診断が下された。
彗星のごとく現れ、かなた遠くへと飛び去ってしまったハートレー。超越した破壊力がもろ刃の剣となり、自らの競走生活を阻んでしまったのが残念でならない。だが、ホープフルSで放った超一流の輝きは、いつまでも多くのファンの目に焼き付いている。