サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ビリーヴ
【2003年 函館スプリントステークス】驚くべき成長力を示したスプリント界の女王
セレクトセール(当歳)にて6000万円で落札されたビリーヴ。母グレートクリスティーヌ(米1勝)の父は快速系のダンジクであり、その半姉にG1を11勝したレディーズシークレットがいる。鍛錬を積んでも伸びやかさやバネを失わない父サンデーサイレンスらしさも加味されて誕生した。
2歳11月、京都の芝1200mで新馬勝ちを果たしたものの、5連敗してクラシックへの出走はかなわなかった。5月の中京(芝1200m)を勝ち上がると、5か月間の休養が功を奏し、すっかり軌道に乗る。
醍醐特別を勝ち上がり、準オープンでも堅実に上位を賑わすように。4歳4月の淀屋橋Sを制したころには、馬体が20キロもボリュームアップした。夏を迎え、一気の快進撃。佐世保S、北九州短距離Sに続き、セントウルSも連勝で突破した。
そして、同年は新潟で行われたスプリンターズSへ、堂々の1番人気(単勝2・2倍)を背負って臨む。すでにG1馬となっていたアドマイヤコジーン(半馬身差の2着)、ショウナンカンプ(3着)をマークして3番手を追走。淡々とラップが刻まれ、なかなか前が止まらなかったうえ、直線はインに封じ込まれてしまう。それでも、武豊騎手はラストでぎりぎりのスペースへと導き、ハイレベルな追い比べを力強く制した。
世界の強豪が相手となった香港スプリントは12着。環境の変化も堪えた。気持ちを新たに阪急杯より再スタート。ただし、イレ込みがきつく、枠入りを躊躇。直線はまったく抵抗できず、9着に敗退する。
もう燃え尽きたかとささやかれ出し、高松宮記念では3番人気に甘んじる。このレースより手綱を託されたのが、JRAに移籍したばかりの安藤勝己騎手だった。予想どおりにショウナンカンプがハナを叩き、前半3ハロン32秒9のハイペースを演出。そのなか、1番枠より包まれないように押してスタートを切り、好位をキープする。旧中京コースの勝負どころだったコーナーでポジションを上げ、直線もがらりと空いたインを突き、馬なりで先頭へ。展開を利して末脚を伸ばす待機勢をあっさり振り切ってゴールする。安藤騎手にとって、待ち焦がれたG1初勝利の瞬間だった。
京王杯SC(8着)、安田記念(12着)と敗退する。ただし、函館スプリントSは格の違いで復活の勝利。ハイペースを先行しながら、早め先頭から押し切り、2着に2馬身の差を広げた。松元茂樹調教師は、こう健闘を称える。
「当時はズルい面が目立ち始めていたが、安藤ジョッキーは的確に対処。うまくやる気を引き出してくれたね。結局、あれが最後の勝利となったが、5歳時も一段と充実。スピードの絶対値はもちろん、目覚ましい成長力も兼ね備えていたのがビリーヴのすばらしさだよ」
セントウルSはハナ差の2着、スプリンターズSでもデュランダルの強襲に屈したとはいえ、わずか15㎝の差での2着だった。一気に頂点まで極めたうえ、スプリント界の女王は現役生活を通して輝きを失わなかった。
世界でもトップクラスの種牡馬と配合しようと、引退後はアメリカで繁殖入り。繁殖成績は優秀であり、ファリダット(5勝、重賞での2着が2回、安田記念3着)、フィドゥーシア(7勝、アイビスサマーDを2着)を送り出したうえ、ジャンダルム(7勝、スプリンターズSなど重賞3勝、ホープフルS2着)が母に続いてスプリント界の頂点を極めた。待望の重賞勝ちを果たした。名牝の系譜は、未来へ向けて豪華に発展していく。