サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヒカルアマランサス

【2010年 京都牝馬ステークス】繊細ながらも枯れない遅咲きの名花

 メジロマックイーン、ゴールドアリュール、ディープインパクトをはじめ、数々のスターホースを育てた池江泰郎調教師。晩年に巡り会った逸材にヒカルアマランサスがいて、その将来性を高く買っていた。

「初めて見た1歳のころでも、しなやかな身のこなしには惹かれるものがあったよ。もっと早く使い出せていたら、桜花賞でもいいところがあったかもしれない」

 同馬がデビューする前年、リーディングサイアーに輝いたアグネスタキオンの産駒。母スターミー(その父エーピーインディ)は、アメリカより輸入され、10戦2勝の戦績を残した。祖母カーリーナがフランスのオークスを制した名牝である。カラベルラティーナ(3勝)は同馬の半姉。金鯱賞を制し、宝塚記念や天皇賞・春でも2着に食い込んだカレンミロティックが半弟にいる。

「2歳秋にはノーザンファーム空港より栗東近郊のグリーンウッド・トレーニングに移動させ、始動のタイミングを探っていた。ただ、トモの肉付きに物足りなさがあってね。あせらずに発育を待ったんだ。年末に入厩した後も、大切に仕上げたよ」

 3月の小倉(芝1200m)で新馬勝ち。いきなり天性の末脚が炸裂した。駆使した上がり34秒6は、次位をコンマ6秒も上回るもの。一気に3ハロンも距離を延ばした君子蘭賞も、あっさり連勝を飾った。勝ちタイム(1分48秒0)は、前日の毎日杯とまったく同じ。レースのラスト3ハロン(34秒5)もぴたりと合致する流れだったが、33秒9の瞬発力を発揮している。

「最大の長所は素直な性格。常におっとりしていて、度胸もある。ムキになることがないから、鞍上の意のままに動けるんだ。競馬場でもイレ込む心配はない。それでいて、いざというときは燃えに燃え、別馬のような闘志を発揮してくれる。文句なしの優等生だった」

 だが、繊細な体質に泣かされ、出世には思いのほか時間が必要だった。オークス出走を目指し、忘れな草賞に挑んだところ、一気に体重を減らし、10着に敗れてしまう。5か月間のリフレッシュを経て、本来のスタイルに戻ったものの、飼い食いは細いまま。ローズS(16着)や堀川特別(1着)当時も、控えめの調整に終始していた。担当した川辺賢一郎調教助手は、こう気が抜けない日々を振り返る。

「飽きないよう、頻繁に配合を変え、複数の種類を与えていましたね。平らげるのに時間がかかるとはいえ、一日中、休み休み口にしてくれるように。だんだん中身がしっかりしていきましたよ。年末くらいになって、ようやく常識的な負荷をかけられるようになったんです」

 初の長距離輸送を経たユートピアSを2着。格上挑戦となった愛知杯も、コンマ1秒差の4着と健闘する。そして、ぽつんと最後方を進みながら、京都牝馬Sでは直線だけで他馬をごぼう抜きに。華々しく初のタイトルを手にした。

 競走馬名のアマランサスとは、葉鶏頭の花のこと。ギリシャ語の「しぼまない」が語源で、花言葉は「粘り強さ」や「心配ご無用」など。ついに美しい花を咲かせたのである。

 阪神牝馬Sは13着に大敗したが、「スムーズさを欠き、実力を発揮させられなかった。もう少し距離があれば」と、騎乗した内田博幸騎手もコメント。ヴィクトリアマイルでの懸命なパフォーマンスは忘れられない。わずかクビ差の2着。好位から先頭に踊り出て、最後まで渋太く粘った。

 マーメイドS(5着)やクイーンS(8着)では期待を裏切ったが、エリザベス女王杯を5着に健闘。冬場に向けて調子を上げ、愛知杯(3着)、京都牝馬S(2着)と好走する。

 池江師の引退に伴い、高野友和厩舎へ。前がふさがる不利を受けた中山牝馬S(9着)は参考外であり、さらなる前進が見込まれた。ところが、調整中に鼻出血を発症。早すぎる引退が決まった。

 繁殖としても着々と成果を収めつつあるヒカルアマランサス。ホウオウアマゾンはアーリントンCを制したうえ、重賞での2着が3回。ギモーヴ(4勝)、クインアマランサス(3勝)といった娘たちを通しても、色鮮やかな花を咲かせるに違いない。