サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ビーナスライン
【2006年 函館スプリントステークス】トップステーブルの礎となった幸運の女神
第90回日本ダービーをタスティエーラで制した堀宣行調教師。クラシック制覇は、皐月賞、ダービーの2冠に輝いたドゥラメンテに続く3度目となる。8歳のラストランで生涯最高の強さを発揮したキンシャサノキセキ(高松宮記念2回)、マイルから2000mへと守備範囲を広げ、香港カップにて有終の美を飾ったモーリス(他に安田記念、マイルCS、香港マイル、チャンピオンズマイル、天皇賞・秋)らが象徴するように、それぞれの未来図に沿って、プロフェッショナルな仕事を貫いてきた。手にしたJRA重賞は通算68勝、海外を含めてG1のタイトルは21勝に到達。着々とトップの地位を固めてきたなか、ステーブル史上で初の重賞ウイナーとなったのがビーナスラインだった。
長年に亘って多彩な一流馬を送り出したフジキセキの産駒。キンシャサノキセキ、ファイングレイン(高松宮記念)、ストレイトガール(ヴィクトリアマイル2回、スプリンターズS)をはじめ、スプリント界での成功例も多い。母ホクトペンダントは報知杯4歳牝馬特別を2着した。祖母ホクトビーナス(桜花賞2着)に連なるファミリー。同馬の半弟にチョウカイファイト(4勝、地方5勝、中日新聞杯3着)、ベルベットロード(3勝)、ファントムロード(5勝)らがいる。
2歳9月、札幌の芝1200m(5着)でデビュー。続く未勝利は3着に前進したものの、当時は体質が繊細であり、ソエも抱えていた。間隔を開けながら大切に使われ、7戦目となった3歳の7月に函館(芝1200m)を勝ち上がる。同条件の500万下も連勝。夏場の気候や現地の洋芝への高い適性を示していた。
昇級後は鳥羽特別(2着)、中山の芝1600m(2着)などで、一瞬の鋭さを垣間見せる。翌夏も函館に照準を定め、下北半島特別で3勝目をマーク。UHB杯を3着し、札幌の羊ヶ丘特別に優勝した。11月の東京(芝1400m)も鮮やかに差し切り、地力強化をうかがわせた。準オープンの6戦では足踏みしたが、いよいよ得意のシーズンが到来する。
格上挑戦だけに、函館スプリントSは単勝77・4倍の13番人気にすぎなかったが、敏腕チームの熱意がみごとに通じる。じっと後方で脚をため、直線で大外に持ち出すと、驚きの逆転劇が始まった。レースのラスト3ハロンを1秒1も上回る33秒9の鋭さを駆使。楽々と抜け出し、後続に2馬身半もの差を広げてゴールに飛び込んだ。
騎乗した秋山真一郎騎手も、こう幸運を噛み締める。
「北海道で重賞に勝つのは初めて。チャンスを与えてもらえ、感謝するしかないですよ。思い切った競馬をしようと思っていて、すべてがうまくいきました。状態が良かったですし、これで函館では5戦4勝(3着が1回)とのこと。それにしてもすごい脚でしたね。びっくりしました」
もどかしい戦いが続いても、陣営は勝負のタイミングを適切に見据え、丁寧に折り合いを教え込んできた。仕上げにも最善を尽くした結果、馬も最高のパフォーマンスで応えてくれたのだ。
以降は未勝利に終わったとはいえ、キーンランドC(3着)、シルクロードS(3着)、高松宮記念(4着)と見せ場をつくったビーナスライン。6歳時のキーンランドC(7着)まで懸命に走り、生まれ故郷の酒井牧場で繁殖入りした。
いまのところ、JRAで勝利した産駒はトーホウビスカヤ(1勝)のみだが、娘のスマッシュハート(未勝利)の産駒にストロングライン(3勝)、タイセイシリウス(3勝)、エスコバル(3勝)らがいる。女神の血筋を受け継いだスターの登場を楽しみに待ちたい。