サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヒストリカル

【2012年 毎日杯】歴史を塗り替える一撃を期して

 福島記念(3着)まで37戦を消化し、7回も重賞で掲示板を賑わしたヒストリカル。追い込み一手の脚質に泣き、通算5勝のみに終わったとはいえ、非凡なポテンシャルは十分に示している。

 日本競馬を牽引するディープインパクトの後継。母ブリリアントベリー(その父ノーザンテースト、3勝)の産駒には、ニューベリー(京都金杯2着)、レニングラード(アルゼンチン共和国杯)、そして、天皇賞・秋やマイルCSをはじめ、重賞9勝のカンパニーがいる。祖母が日本生産界に偉大な足跡を残すクラフテイワイフ(米7勝)であり、直仔のJRA勝利数は50勝をオーバー。トーセンジョーダン(天皇賞・秋)らもファミリーの一員だ。

 音無秀孝調教師にとっては宝物のような血脈。その名(競馬史上に輝く成果を期待して命名)の通り、生まれ落ちた当初より大きな夢を託していた。
「体型はカンパニーに似ているけど、父親の良さを引き出す繁殖。いろいろな条件で活躍している。この仔はもともとスマートだったし、とても軽やか。いかにもディープだったね」

 2歳11月、京都の芝2000mを新馬勝ち。いきなり抜群の決め手を発揮した。ただし、エリカ賞(5着)、福寿草特別(4着)と、メンバー中で最速の上がりをマークしながら差し届かなかった。距離よりも直線が長いコース形態を優先させ、きさらぎ賞に臨む。2着に終わったとはいえ、ラストは32秒8。レースの上がりにコンマ9秒、勝ち馬のワールドエースをコンマ2秒上回る鋭さだった。

 念願の重賞制覇を飾ったのが毎日杯。そのパフォーマンスは鮮烈なインパクトを残した。切れが削がれる重馬場を跳ね除け、とても届かないと思われるポジションから大外を矢のように伸びる。きっちりと抜け出した。

「外回りコースにこだわり、今度こそはと狙った一戦。スピードの乗りが遅く、どうしてもテンには行けない。でも、道中はハミを噛んだりせず、自ら脚を温存しているかのようだった。瞬発力に自信を深めたよ。皐月賞を使いたくなるところだが、晩生の血だけに、無理をしたら将来につながらない。カンパニーも3、4歳時は飼い食いが細かったが、この仔も同様。当時もトレセンでは450キロくらいで推移していて、体調維持に苦労はなかった。ただ、実戦となれば、どうしても体が減ってしまう。だから、ダービー一本に的を絞ったんだ。でも、甘くはなかったなぁ」

 間隔を開けても、大幅なマイナス体重。狙った晴れ舞台は最後方のまま、動けずに終わった。カシオペアS(4着)、六甲S(3着)などで上位を賑わせながら、重賞では末脚が不発。4歳秋に西宮Sを順当勝ちし、ポートアイランドSで3着に前進したが、翌春の大阪城Sまで勝利から遠ざかる。

 6歳シーズンを迎え、福島テレビOP(2着)、アイルランドT(1着)、チャレンジC(2着)と成績が安定。だが、京都記念(4着)以降、勢いは続かなかった。7歳時に毎日王冠で3着。8歳になっても小倉大賞典を2着したものの、あとひと押しが利かなかった。

 優秀な血統背景が買われ、イーストスタッドで種牡馬入りしたが、需要は少なく、2021年シーズンで引退。それでも、青春期に放った輝きは、いまでも鮮烈なインパクトを伴って蘇ってくる。