サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ベルカント

【2015年 アイビスサマーダッシュ】電撃の直線に高らかと響く佳麗な旋律

 2歳8月に小倉で迎えたデビュー戦(芝1200m)から非凡な速力を見せ付け、5馬身差のワンサイド勝ちを演じたベルカント。小倉2歳Sは2着に敗れたものの、ファンタジーSを堂々と逃げ切り、早くも重賞ウイナーに輝いた。

 長年に渡って日本のスプリント界を支えたサクラバクシンオーが父。母セレブラール(その父ボストンハーバー)も短距離で3勝をマークした。同馬の半妹にあたるイベリスもアーリントンCの覇者となっている。

 阪神JFではなく、牡馬相手の朝日杯FSへ。中山コースのほうが持ち味を生かせるとの判断だったが、急坂で失速して10着。フィリーズレビューでは好位で折り合い、鮮やかな勝利。しかし、距離の壁は跳ね返せず、後方に控えた桜花賞は10着に終わる。

 CBC賞(5着)以降は1400m以下に専念し、スプリンターズSでも僅差の5着に踏み止まったが、一本気な気性ゆえ、流れに応じて脚をためるのは依然として苦手。4歳春まで無念の7連敗を喫する。右肩に軽い外傷を負うアクシデントがあり、CBC賞を取り消し。ただし、夏場に調子を上げる個性であり、ますます馬体がボリュームアップしてきた。

 アイビスサマーダッシュに駒を進めると、ファンも直線競馬への適性を見込み、1番人気(単勝3・7倍)に推された。スタートを決め、持ったままで3番手に待機。ラストで追い出されると一気に突き抜け、後続を2馬身も置き去りにする。これが初騎乗となったミルコ・デムーロ騎手も、優秀な性能を絶賛した。

「スタートの速さにびっくり。スピードの違いで楽々と押し切れた。この馬のペースを守り、のびのびと走れた。この条件はベストだね」

 勢いに乗り、北九州記念を連勝。サマースプリントシリーズチャンピオンに輝く。スプリンターズS(13着)、京阪杯(4着)とキャリアを重ねたうえ、翌春にドバイのアルクォズスプリント(12着)へ。帰国後も大きなダメージはなく、再びピークの季節が到来する。CBC賞はクビ+クビ差の3着に健闘した。

 前年より人気(単勝2・4倍)を上げて臨んだアイビスサマーダッシュ。2番手で虎視眈々と抜け出すタイミングを計り、ラスト1ハロンでゴーサインを送ると、きっちりと差し切りを決めた。

「去年に続き、2度目の依頼を受けてラッキー。内目の枠(4番)でも、この馬には関係なかった。スムーズに運べたよ。前の馬が渋太くて、ちょっと心配したけど、なんとか交せると信じていた」
 と、デムーロ騎手は胸を張った。

 電撃のストレートコースに高らかと佳麗な旋律を響かせたベルカント(馬名は音楽用語で美しい歌)。北九州記念は惜しくも2着だったが、同年もサマースプリントの王座を防衛した。スプリンターズS(10着)を走れ終えると、余力を残して繁殖入り。きっと産駒たちも真面目な性格や卓越した身体能力を受け継ぎ、母の名を高めていくに違いない。