サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ヘニーハウンド

【2011年 ファルコンステークス】規格外のスピードで猛追する利発なハウンドドッグ

 バレッツ社の2歳トレーニングセールにて20万ドルで落札されたヘニーハウンド。公開調教では1ハロン10秒0の好タイムを叩き出していた。

 キングスビショップS、ヴォスバーグSとダート7ハロンのG1を2勝したヘニーヒューズが父。BCディスタフ2回をはじめ、G1に11勝したビホルダーだけでなく、モーニン(フェブラリーS)、アジアエクスプレス(朝日杯FS)などを輩出し、日本でも成功を収めている。母ビューティフルモーメント(その父クルーセイダースォード、米1勝)は、クリスマスデイHで重賞勝ちしたビイディングプラウドの半妹。同馬の半姉にJRAで2勝したシンフォニーライツがいる。

 ノーザンファーム空港での調整を経て、矢作芳人厩舎にやってきたのは2歳の11月になってから。27日の東京(芝1400m)では早くもデビュー戦を迎え、楽々と逃げ切った。調教パートナーを務めた渋田康弘調教助手(矢作芳人厩舎)は、当初から破格のポテンシャルを感じ取っていたという。

「立派な馬格だけにパワーもたっぷり。それでいて、上品な雰囲気がある。いざとなったらきつい面を見せるけど、普段は穏やかだし、とても賢くて。あっという間にゲート試験をパスしたし、速いところへいっても意のままに動けた。余力を持たせても、タイムが出すぎてしまうくらい。物が違うと自信を深めていたね。ただし、まだまだ体質が弱く、トモの緩さも目立っていた。6、7分といった態勢でレースに送り出したんだ」

 完成されるのは先と見て、4か月間のリフレッシュを挟む。一気にハードルを上げ、ファルコンSへ。ゲートで後手を踏みながら、大外一気に差し切りを決めた。わずか2戦目での重賞制覇。ポテンシャルの違いを見せ付けた。

「早くから身体の完成度が抜けていたとはいえ、無理せずタイトルに手が届いてしまった。だから、NHKマイルCでも常識を覆せるんじゃないかと思わせたね」

 ところが、結果は12着。朝日杯FSに続くビッグタイトルを手にした同僚のグランプリボスに1秒1遅れてのゴールとなった。

「グラプリボスの動きもすごいけど、こちらは調教でもっと鋭く反応する。走りに無駄がなく、ちょっと味わえないスピード感。能力を出し切れなかった悔しさを以降にぶつけたかった。でも、反動が抜け切らず、まったく能力を発揮できなくて。しばらくは筋肉の硬さが残り、トモの送りもぎこちなくて。ノド鳴りの症状にも泣かされたよ」

 1200mに照準を定めても、函館スプリントS(11着)、オパールS(16着)と不本意な走りが続いた。長めにリフレッシュさせたことで、ようやく本来の輝きを取り戻し、鞍馬Sでは復活の勝利を挙げる。トップハンデを背負って繰り出した上がりは、次位をコンマ8秒も凌ぐ32秒2。展開無用の切れ味だった。

 しかし、なかなか心と体のバランスが整わない。6歳になり、オパールSをレコード勝ちしたものの、結局、これが最後の勝ち鞍となった。吉村圭司厩舎に移り、8歳春まで全32戦を消化したうえ、種牡馬入りした。

 目立った活躍馬を送り出せず、優駿スタリオンステーションより東北牧場へ移動したヘニーハウンド。産駒は稀少だが、大きな獲物を目がけて猛追する新たなハウンド(猟犬)の登場を心待ちにしている。