サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ベストメンバー
【2009年 京都新聞杯】天賦の才と努力で勝ち取った若き日の栄冠
「初めて見た当歳時より、立派な馬格をしていましたが、想像以上に奥が深かった。乗り始めたころは動きが地味なほう。鍛えれば鍛えるほど、才能を発揮してきた努力家なんです」
宮本博調教師がこう振り返るのはベストメンバーのこと。父は長距離G1を3勝したマンハッタンカフェ。ジョーカプチーノ(NHKマイルC)やレッドディザイア(秋華賞)が登場した黄金の3世代目にあたる。母グレートキャティ(その父サクラユタカオー、2勝)はマイル前後で活躍した。同馬の半姉にイコールパートナー(東京ハイジャンプ)。スワンSを制し、重賞の2着が4回あるウイングレイテスト(現4勝)は半弟にあたる。
両親の長所をバランスよく受け継ぎ、デビュー前より素直で乗りやすく、しかも、長くいい脚が持続するのが自慢だった。9月の新馬(阪神の芝1800m)を好位から抜け出すと、京都2歳Sも僅差の4着に健闘した。寒竹賞で順当に2勝目をマーク。きさらぎ賞は4着だったものの、若葉Sを競り勝ち、トップクラスの地位を固めた。
「皐月賞は苦しい位置取り。直線で外に出して5着まで押し上げました。能力を再認識しましたが、ダービーの出走権(4着まで)が獲れなかったのが残念で。それでも、敗れた悔しさをバネに、直後には必ず勝ち上がってきたのが立派なところです。京都新聞杯は、安心して見ていられましたよ」
好位で流れに乗り、手応え十分に直線へ。力強く伸び、あっさりと馬群を割った。
「自分で競馬をつくるつもりだった。それで勝ち負けできなかったら、ダービーへいっても期待できないからね。皐月賞へのラストチャンスだった若葉Sで権利を確保したのに続き、きっちりチャンスをものにするあたりは、実力も、運も兼ね備えている」
と、ベストパートナーの四位洋文騎手も、晴れやかな笑顔を浮かべた。
ところが、重賞制覇の感激もつかの間、両ヒザと左前の球節を剥離骨折していたことが判明。大一番へのエントリーはかなわなかった。3歳後半は沈黙を守る。
日経新春杯(7着)で復帰。しきりに行きたがったのが誤算だった。もともと怖がりな一面があり、音には敏感。出ムチを振るって先へ行こうとした馬に影響されたのだ。
「放牧先の大山ヒルズで丁寧に立て直され、ひと回りたくましくなりましたよ。ただ、無理せず好タイムが出てしまい、短距離馬のような雰囲気に。心と体のバランスを整えるのが難しかったですね。緩かったトモにもパワーが加わったぶん、脚元への負担も大きく、その後は右前に骨瘤が出たり、爪を傷めたり。結局、能力を出し切れなかったのが惜しまれます」(宮本調教師)
さらに8か月間のブランクを経て、朝日チャレンジC(4着)、京都大賞典(4着)と歩んだのみでターフを去った。それでも、常に一線級を相手に戦いながら、ベストを尽くしたベストメンバー。中身の濃い競走生活といえよう。