サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ベストアクター
【2020年 阪急杯】神々しきパフォーマンスを演じた夭逝のヒーロー
2020年の阪急杯を鮮やかに制したベストアクター。道中は窮屈な馬群のなかで我慢するかたちになったものの、狭いスペースを割って外へ持ち出し、ラスト100mで鋭く突き抜けた。
母のベストロケーション(その父クロフネ、5勝)は京都牝馬Sを2着、キーンランドCも3着した活躍馬。祖母が名牝、ダイナアクトレスであり、叔父母にステージチャンプ、プライムステージがいて、スクリーンヒーローも近親に名を連ねる豪華なファミリー。日本競馬の至宝である ディープインパクトが配されて誕生した。
「母には思い出がたくさん。タイトルを獲らせてあげられなかったのを悔やんでいましたが、その仔で念願を果たせたのがうれしいですね。母に似て、以前は歩様の硬さが目立ちましたので、慎重にステップを踏んできました。ようやく思い描いた稽古を課せるように。去勢効果で伸びやかさが加わり、抜群の勝負根性も備わって、それが見違えるような決め手に表れています」
と、鹿戸雄一調教師は、こう安堵の笑みを浮かべた。当時は6歳となっていたが、2度に渡る長期休養を経て、まだキャリアは12戦。心身は若々しく、さらなる飛躍を予感させた。
体質に繊細さを抱え、デビューを果たしたのは3歳4月の東京(芝1400m)。出遅れながらも、いきなり素質の違いを示し、あっさり差し切り。2戦目の東京、芝1600mは6着に終わったが、7月に新発田城特別で2勝目をマークする。だが、五頭連峰特別(10着)で骨折を発症。10か月のブランクを経て1走したところで、再び骨折。この間に去勢手術が施された。
10か月半の沈黙を打ち破り、5歳春に五泉特別を勝ち上がる。由比ヶ浜特別(2着)以降も3着、5着と健闘したが、セン馬によく見られる現象として体が細化。神奈川新聞杯を優勝してリフレッシュを挟み、快進撃が始まった。雲雀S、そして、阪急杯と3連勝を飾り、めきめき充実を遂げたのである。
しかし、一気に全力を尽くした反動は大きく、右前の腱に炎症を発症。1年の休養を余儀なくされた。思い出の阪急杯(16着)で再スタートを切った矢先、今度は骨瘤に泣かされる。復調のきっかけがつかめないままで臨んだ7歳暮れの阪神Cがラストラン。右前を脱臼し、無念の競走中止。あっさり天国へと旅立ってしまった。
輝いた瞬間が短かった分も、ベストパフォーマンスのインパクトは永久に薄れない。ジェームス・ディーンのような忘れえぬ名優といえよう。