サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ベストディール

【2012年 京成杯】新たな夢を引き寄せるベストパフォーマンス

 ここをステップにダービー馬となったエイシンフラッシュをはじめ、クラシックでの活躍馬を量産している京成杯。2012年に卓越したパフォーマンスを披露したがベストディールである。

 縦長に延びた隊列の中団でスムーズに脚をため、4コーナーから大外へ持ち出すと、瞬時に鋭さを発揮。鮮やかな差し切りを決める。国枝栄調教師は、こう満足そうに笑みを浮かべた。

「もともと追い切りの反応が抜けていて、初戦(8月14日の札幌、芝1800mを優勝)よりセンスのいい走り。札幌2歳S(4着)当時は牝みたいに線が細かったが、百日草特別を勝った後の休養を経て、ぐっとたくましさを増したんだ」

 例年、リーディングの上位に名を連ね、日本競馬を牽引する立場を確立している国枝師。昨年にJRA通算1000勝に到達したうえ、アパパネ、アーモンドアイによる牝馬3冠の栄冠など、手にした重賞は62勝に上る。だが、3歳牡の頂上決戦への出走は意外と少なく、この時点で皐月賞へ3頭、ダービーにも1頭を送り出したのみだった。

「いまだに遠いところにある夢に向け、思い描いたとおりに進歩している。穏やかな性格で、きちんとコントロールが利くのが心強い。こういう馬とはなかなか巡り会えないよ」

 父はディープインパクト。日本競馬を一変させたサンデーサイレンスの最高傑作であり、史上最速のスピードで勝ち鞍を積み重ねた。2世代目となる同期からも、ジェンティルドンナ(牝馬3冠、ジャパンカップ2回、ドバイシーマクラシック、有馬記念)、ディープブリランテ(ダービー)、ヴィルシーナ(ヴィクトリアマイル2回)、スピルバーグ(天皇賞・秋)、ジョワドヴィーヴル(阪神JF)らが登場している。

 母系も優秀。配されたコマーサント(その父マルシャンドサブル)はフランス生まれであり、加G1・EPテイラーSや仏G3・プシケ賞を制した。米G1・フラワーボウル招待Sでも2着している。社台サラブレッドクラブでの募集総額は6000万円だった。

 一躍、スター候補に踊り出たベストディールだったが、その後はなかなか本調子を取り戻せなかった。トモに疲れが感じられ、弥生賞を回避。左前脚の球節に軽い炎症を起こし、結局、春シーズンを全休することとなる。

 セントライト記念(11着)以降も爪のトラブルに見舞われるなど、不運の連鎖から脱することができなかった。入退厩を繰り返し、懸命な立て直しが図られたものの、脚元や股関節の不安は解消せず、5歳8月の佐渡S(13着)を最後に現役を退いた。

 京成杯で全エネルギーを消耗させてしまったかのような競走生活ではあったが、ベストパフォーマンスの輝きはいまでも鮮烈なまま。あのときめきを味わったぶんも、トレーナーの意志はさらに強固なものとなった。ホースマン人生も集大成のタイミングに差しかかっているが、新たなチャレンジから目が離せない。