サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ベルーフ
【2015年 京成杯】熱きファイトで完遂した若き日のミッション
2歳10月の京都(2000m)で新馬勝ちを収めると、百日草特別も渋太く2着を確保したベルーフ。後に毎日王冠など重賞を4勝したルージュバックの決め手に屈したものの、かかりそうになったり、内に刺さる若さを垣間見せての結果である。コーナーで逃げ、ゴール寸前でも反抗しながらも、エリカ賞では2勝目をマークした。
「大物を輩出するはずの父。重厚なヨーロッパ血脈だけに、奥深さも十分に見込んでいました。兄姉のラルシュドール(3勝)、クラージュドール(5勝、地方2勝)はダート向きながら、身のこなしが柔軟。明らかにターフランナーでした。ノーザンファーム空港での育成時より健康的で丈夫。入厩した当初でも、しっかり負荷をかけられましたね。抜群の切れ味を発揮したレクレドール(その父サンデーサイレンス、4勝)の特長も受け継いでいて、母の最高傑作になれる器だと信じていましたよ」
と、池江泰寿調教師も豊かな未来を思い描いていた。
キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを11馬身もの大差を付けてレコード勝ちしたハービンジャーのファーストクロップ。同馬が初の重賞ウイナーに輝くこととなる。母はローズSやクイーンSに優勝。トレーナーにとって馴染みのファミリーであり、調教助手の時代に愛情を注いだステイゴールドが母の全兄にいる。サンデーサラブレッドクラブの募集総額は4000万円だった。
クラシックを見据えて臨んだ京成杯。強烈なインパクトを放った。大外枠を引き、ペースも落ち着いたなか、後方から外を回しての逆転劇。ハナ差の辛勝でも、ラストの鋭さは目を見張るものがあった。
「激しい気性がいい方向へつながり、抜群の勝負根性を発揮してくれました。この先の大舞台でも通用する器だと再認識。ただし、いかにも粗削りです。常にひやひやして見ていましたね。経験を積んで操縦性の課題が改善されれば、それに伴って肉体も充実するだろうと想像。この馬向きの仕上げを工夫して、ワンランク上のコンディションを整えるべく努力したのですが、調教でも集中して動けず、なかなか満足する態勢でレースへ送り出せなかったんです」
陣営の情熱がやんちゃな少年へと伝わり、与えられたベルーフ(ドイツ語で使命)をみごとに遂行。ところが、精神面のコントロールは難しさを増す一方だった。結局、スプリングS(4着)以降は未勝利に終わる。
だが、小倉記念(2着2回、5歳時も4着)、セントライト記念(5着)、菊花賞(6着)、日経新春杯(5着)をはじめ、確かなポテンシャルを垣間見せたシーンは多々。6歳になっても、伸びる可能性を見込まれながら、トレーニング中、右トモに重篤な故障(浅趾屈腱脱位)を発症してしまい、志半ばでのリタイアが決まった。
現在は、引退馬のセカンドキャリア構築を目指し、馬ふんによる堆肥づくりをベースとした農業を展開しているジオファーム八幡平にて余生を送っているベルーフ。競走時代と違い、常に穏やかな表情で過ごしているという。いつまでも幸せにと、願わずにいられない。