サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アルティマトゥーレ

【2010年 シルクロードステークス】世界の果てを目指して歩んだシルクロード

 ワールドレベルの成功を願って、「世界の果て」との名が付けられたアルティマトゥーレ。その血統背景にふさわしく、競走時代は鮮烈なインパクトを放った。

 長年に渡り、様々なカテゴリーにトップホースを誕生させたフジキセキが父。キンシャサノキセキ(高松宮記念2回)、ファイングレイン(高松宮記念)をはじめ、スプリント部門での成功例も多い。母エアトゥーレ(その父トニービン)は阪神牝馬Sの覇者であり、仏G1のモーリスドゲースト賞を2着するなど、海外でも活躍した。祖母がムーランドロンシャン賞に勝ったスキーパラダイス。皐月賞馬のキャプテントゥーレは同馬の半弟にあたる。

 単勝2・3倍の1番人気に応え、2歳12月の新馬(阪神の芝1400m)を快勝。ただし、レース後は球節付近に軽い炎症が認められた。さわらび賞で復帰したものの、イレ込みが響いて7着。オークスを除外されて臨んだガーベラ賞で2勝目をマークする。ところが、腰に受けたダメージがなかなか癒えず、1年5か月も沈黙を守ることになる。

 だが、この間の成長は大きかった。美浦の奥平雅士厩舎へ転厩したうえ、4歳10月に福島の芝1200mで復帰。いきなりクビ差の2着に食い込み、確かなポテンシャルをアピールした。

 疲れがたまりやすい傾向は解消せず、さらに3か月間の休養を挟んだが、豊橋特別で5馬身差のワンサイド勝ちを飾り、すっかり軌道に乗る。鈴鹿特別も危なげなく逃げ切り、阪神牝馬S(10着)では初めて重賞の舞台を踏んだ。

 テレビユー福島賞をスピードの違いで押し切ると、アイビスサマーダッシュでも3着に健闘。セントウルSでは初のタイトルに手が届いた。しかも、持ったままで突き抜け、後続に2馬身半差を付ける圧勝である。奥平調教師は、愛馬に最大限の賛辞を送った。

「ここまでたどり着くのに時間がかかったとはいえ、ひとつひとつを着実にクリア。G1級の能力も証明できました。馬に感謝するしかありません。5歳といってもキャリアが浅く、底知れない可能性を感じます」

 しっかりと態勢を整えて向かったスプリンターズSだったが、直線で窮屈な位置に押し込まれ、5着に終わる。京阪杯は出遅れが響き、8着に敗退した。

 力を出し切れなかった悔しさを晴らすべく、6歳緒戦のシルクロードSへ。すっと行き脚が付き、2番手をキープした。前半3ハロンを34秒6で通過。ゆるかやなペースに手応え十分に折り合い、タイミングを測ってスパート。ラストは33秒5の伸び。直線半ばであっさり抜け出し、後続をコンマ3秒も突き放す。

 横山典弘騎手は、こう安堵の笑みを浮かべた。
「久々だったし、出たなりの位置で流れに乗せた。次を見据えた仕上げで、まだ本調子にないと聞いていたが、ここでは器が違ったよ。大目標でも、ぜひいい走りを」

 高松宮記念でも差のない2番人気に推された。クラブの規定でこれがラストラン。有終の美を飾りたいと、かかわる誰もが燃えていた。だが、痛恨の出遅れ。直線で懸命に脚を伸ばしながら、5着が精一杯だった。

「ゲートが開いた瞬間、躓いてしまった。馬は落ち着いていたし、どうしてあんなところで。誰のせいでもなく、天の声というか、神様が味方してくれなかったとしか言いようがない」
 と、この一戦に賭けていたジョッキも唇を噛みしめる。

 順調に活躍馬を誕生させながら、12歳の若さで急逝したアルティマトゥーレ。だが、アルティマブラッド(6勝)、デリスモア(2勝)、アルティマリガーレ(3勝)らがファミリーの血を後世へと伝えていく。きっと祖母の名を高めるスターが登場するに違いない。