サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ミッキークイーン
【2017年 阪神牝馬ステークス】衝撃の末脚でファンを魅了したキラークイーン
セレクトセール(1歳)にて1億円で落札されたミッキークイーン。母ミュージカルウェイ(その父ゴールドアウェイ)は仏G2・ドラール賞など重賞を3勝した名牝であり、G1での3着も3回ある。配された父は稀代のスーパーホースであり、スタリオン入りしてからも日本競馬を一変させたディープインパクト。全姉兄にインナーアージ(4勝)、トーセンマタコイヤ(5勝)がいる。
「セールの下見でも、牝では抜けていると思いました。ノーザンファーム空港でも大切に育てられ、2歳10月に入厩。小柄で機敏に動け、仕上げやすい個性です。当初から突出したポテンシャルが伝わってきましたよ」
と、池江泰寿調教師は若駒当時を振り返る。
阪神の芝1400mで迎えた新馬戦は2着。それでも、次位をコンマ8秒も凌ぐ33秒7の決め手がきらりと光った。続く未勝利を楽々と差し切り。わずかクビ差に泣いたクイーンC(2着)でも、直線の伸びは圧倒的なものだった。
「ソフトに、ソフトに接していても、しばらくはテンションが高く、飼い葉を残しがちでした。クイーンCでの20キロものマイナス体重は、中間に減らしたもの。ただし、イメージ以上に芯が強く、輸送が堪える馬ではないんです。3冠を狙えると思っていただけに、桜花賞の除外は無念でしたが、参加できたとしても特殊な展開(スローペースを生かしてレッツゴードンキが逃げ切り)となりましたし、忘れな草賞で距離延長も克服。ゲートさえ5分なら、オークスで頂点に立てると信じていました」
嗜好を探って飼料の配合を工夫するなど、努力を重ねた成果が表れ、馬体も回復。ライバルたちが馬なりに終始していたのに、同馬だけは直前も一杯に追い切れた。そして、狙い定めた晴れ舞台では、レースのラスト3ハロンをコンマ8秒も上回る爆発力(34秒0)を駆使し、あっさり突き抜ける。
「パドックでイレ込む馬が多いなか、この仔は発汗も目立たず、落ち着いていましたね。ジョッキー(浜中俊騎手)とは、1コーナーまである程度は促すよう、打ち合せました。思い描いたポジションとペース。直線も余力があり、これは捕えられると力が入りましたよ。私自身、牝のクラシックに勝つのは初めてであり、ディープインパクト産駒でも初のG1。こみ上げてくるものがありました」
ローズSは出遅れが響き、2着に敗れたとはいえ、メンバー中で最速となるラスト33秒8の末脚を駆使。当然、先を見据えた態勢にあり、上積みも見込めた。狙い通りに秋華賞のタイトルを奪取。課題のスタートを決めて、直線で鮮やかに馬群を割った。
ジャパンC(8着)は不利が響いた結果。翌春は阪神牝馬S(2着)、ヴィクトリアマイル(2着)と、あと一歩の健闘を続ける。以降は左前の繋靭帯に不安を抱えながら歩むこととなったが、エリザベス女王杯(3着)、有馬記念(5着)も崩れなかった。
復活の勝利を遂げたのが5歳時の阪神牝馬S。生憎の重馬場にもかかわらず、瞬発力の違いを遺憾なく発揮する。スローで流れたなか、あっさりと中団から抜け出し、2着にコンマ3秒の決定的な差を広げた。
「父(ディープインパクトを管理した池江泰郎調教師)は『ディープは中身で走るんだ』とアドバイスしてくれました。現役時代を通して体重が変わらなかったのも同様ですね。見た目は頼りなく、線が細くても、非凡なバネや柔軟性がストレートに生きている。改めて血の偉大さを実感させられました」
結局、以降は未勝利に終わったが、ヴィクトリアマイル(7着)、宝塚記念(3着)、エリザベス女王杯(3着)、有馬記念(11着)と健闘。無事に繁殖入りした。
ミッキーゴージャス (愛知杯) をはじめ、優秀な遺伝子を受け継いだ産駒たちが順調に誕生。新たな夢のつぼみの才能開花が待ち遠しい。