サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ミスパンテール

【2018年 ターコイズステークス】名手のエスコートで際立つ女豹の美貌

 牝の王道路線で中心となるマイルを意識して、7月の札幌、芝1500mの新馬に臨んだミスパンテール。いきなり鮮やかな差し切りを決めた。

「2コーナーで外へ逃げてしまい、直線だけの競馬。瞬発力は想像以上だったね。精神面がしっかりしていて、実戦での勝負根性も立派。1歳時に初めて見て以来、素質には自信を持っていた。男馬みたいにたくましい骨格。そのうえ、バランスがすばらしく、血統のイメージに反し、ゆったりとできている。フットワークが大きく、長く脚を使えるのが特長なんだ。育成先のファンタストクラブより、直接、札幌競馬場へ移動させ、デビューまで3週間。びしっと仕上げるのがうちのスタイルだし、まだまだ良化途上だったよ。それでも、走れる手応えがあった」
 と、昆貢調教師は若駒当時を振り返る。

 早期から勝ち上がるうえ、大舞台に強く、カレンブラックヒル、コパノリチャード、メジャーエンブレム、レーヌミノル、アドマイヤマーズ、レシステンシア、セリフォス、アスコリピチェーノら、続々とG1ウイナーを誕生させているダイワメジャーが父。母エールドクラージュ(その父シンボリクリスエス)は1勝のみに終わったが、その兄姉にウインラディウス(京王杯スプリングCなど重賞3勝)、ジョウノヴィーナス(5勝)らがいる。

 捻挫をする誤算により、7か月もの間隔が開き、2歳女王の夢は途絶えてしまったが、厳しい状況を乗り越え、チューリップ賞を2着。7番人気(単勝52・5倍)の評価を覆し、メンバー中で最速となるラスト33秒7の鋭さを発揮した。

「大切にケアしながら、きちんと態勢を整え直すことができた。自分を見失わない図太さがあり、飼い葉をよく食べてくれる。調整は楽だったね。初戦の内容から、スローペースなら対処できると見込んでいた。ところが、意外と流れ、位置取りが後ろに。3着馬をマークして運んだぶん、勝ち切れなかったなぁ。ただし、速いタイムを求められる決着になっても、スピード負けせず、今後につながる貴重な経験になったよ。桜花賞の出走権だけでなく、賞金加算が果たせたのも収穫だった」

 しかし、前半から力んで外へ逃げ、桜花賞(16着)は思わぬ大敗。果敢に先行したオークスも10着に沈んでしまう。

「力を尽くしていないのは明らか。心肺機能が優秀なだけに、調教は常に動けていた。どうして結果が出ないのか不可解だったけど、わずか2戦しただけでクラシックへ。精神面の幼さに敗因があったように思う。パドックでのうるささは、旺盛な闘争心の表れ。ただし、普段からイライラしていて、気持ちのメリハリが付かずにいたもの」

 ローズSはスムーズさを欠き、10着に終わったものの、清水Sを競り勝って勢いに乗った。ターコイズSでは、初めて手綱を取った横山典弘騎手との感性がぴたりと合い、狭いスペースを瞬時に割る。イメージを一新させるパフォーマンスだった。

「秋以降、ずっと手元に置き、より細かな部分まで状態把握に努めてきた。丁寧に人との信頼関係を築いた効果もあり、ずいぶん落ち着きを増した。順調に経験を積み、すっかりレースを覚えてきたしね」

 さらに京都牝馬Sを鮮やかに差し切る。スローペースを読んで逃げの手に出た阪神牝馬Sも優勝。変幻自在の立ち回りを身に付け、一気の4連勝を飾った。

「戦法に幅を広げられ、収穫は大きかったね。余力を残した仕上げで臨んでも、きっちり結果を残してくれた。もともとG1を狙えると見ていた器。いよいよ勝負のタイミングが到来したと意気込んでいたんだけど」

 ヴィクトリアマイルは、あと一歩の5着。秋シーズンも府中牝馬S(9着)、エリザベス女王杯(12着)とリズムが狂う。しかし、ターコイズSでは前年と同様、豹(フランス語でパンテール)のごとく加速して、インを鋭く切り裂いた。みごと連覇を果たした横山騎手は、こう安堵の笑みを浮かべた。

「このころゲートでソワソワするようになったから心配したけど、きょうは落ち着き払っていた。馬の気持ちに寄り添い、リズムを優先して走らせたんだ。昨年は接戦だったけど、早めに絶好のスペースを確保でき、楽だったよ。長いところを使い、たいへんだったが、マイルならスムーズに能力を発揮できる」

 京都牝馬Sは5着に敗退。まだまだ豹変しそうな魅力を漂わせながら、右前に浅屈腱炎を発症してしまう。早すぎる引退が決まった。

 繁殖としても期待が高まる。アメリカに渡ってトップサイアーのイントゥミスチーフが配されたマテンロウサン(現2)は、母に続いて札幌で新馬勝ちを果たした。新たなドラマの展開が楽しみでならない。