サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

ミリオンディスク

【2010年 北海道スプリントカップ】遅咲きの雄が放った味わい深いミリオンヒット

 未勝利戦が終了すれば、勝ち上がれなかった3歳のほとんどがJRAの競走馬登録を抹消される。ただし、そのなかにも遅咲きの素質馬は潜んでいて、地方競馬から再び転入した後、めきめき頭角を現すケースも多い。ミリオンディスクも、いわゆる「出戻り」の雄である。

 コンスタントに勝ち上がることで知られ、プリモディーネ(桜花賞)やスターリングローズ(JBCスプリント)などのG1級も輩出しているアフリートが父。母はターコイズSなど、6勝を挙げたハッピーリクエスト(その父トニービン)。同馬の弟妹にリクエストソング(きさらぎ賞2着)、アムールポエジー(関東オークス)らがいる優秀なファミリーだ。

 長浜博之厩舎より、2歳の11月に京都(芝1600m)でデビュー。堂々の1番人気に推されたが、伸び切れずに5着に終わった。レース後、右飛節に重度の骨折を発症していることが判明。社台ファームで懸命に立て直されたが、残された未勝利への参戦は困難だった。いったん地方・園田へ移籍。栗東へ帰るための切符を手にするのは、同馬の能力からすれば容易なことだった。1年のブランクを吹き飛ばし、2戦続けて大楽勝を収める。

 新たに未来を任されたのが前年に開業したばかりの荒川義之調教師だった。幸せな巡り会いをこう振り返る。

「預託の打診があった直後、調整先のグリーンウッド・トレーニングで見学し、立派な馬体には圧倒されましたね。入厩してからの動きもすばらしく、ひと追いごとに自信を深めていました。それにしても、緒戦(4歳3月の阪神、ダート1200mを3馬身差で快勝)は想像以上に強い勝ち方でしたよ。スピードの違いでハナを切っているだけで、調教では馬の後ろでも走りはスムーズ。かなりの可能性を感じました」

 昇級後も2着を2回続け、御池特別では後続に4馬身差を付ける快勝。リフレッシュ明けの円山特別でクビ差の2着した後、京都のダート1200mを順当に勝ち上がる。準オープンも2戦目(大和S)で卒業した。

 すばるSではいきなり2着に健闘。千葉S(5着)を挟み、栗東Sに優勝する。前がふさがりながら、欅Sでも4着。半年間を充電に充て、霜月S(2着)から再スタートし、いよいよ初の重賞へと駒を進めた。

 2ハロン目に10秒4のラップが刻まれたカペラS。厳しいペースにもかかわらず、馬任せで好位をキープできた。直線はインを狙って力強く伸びる。ぐいとクビ差だけ出たところがゴールだった。

 根岸S(6着)やフェブラリーS(11着)はトップクラスの壁に跳ね返されたものの、黒船賞(3着)、東京スプリント(3着)、かきつばた記念(3着)と堅実に活躍。そして、北海道スプリントCでは、生涯で最高の輝きを放つこととなる。ハイペースのなか、4番手をキープすると、楽々と抜け出して、後続に4馬身の差。レコードタイムでの快勝だった。

「終始、楽な手応え。こういう広い馬場なら、レースがしやすい。こちらはつかまっていただけだったよ」
 と、フルに持ち味を引き出した蛯名正義騎手は、晴れやかな笑みを浮かべた。

 以降もクラスターC(2着)、東京盃(3着)、JBCスプリント(3着)、かきつばた記念(2着)、北海道スプリントC(3着)など、順調にキャリアを重ねる。気難しさが顕著になった8歳時も、美浦(田中剛厩舎)へ転厩して2戦を消化した。

 種牡馬入り後は目立った活躍馬を送り出せなかったとはいえ、相馬野馬追の乗馬として幸せに余生を送っているミリオンディスク。味わい深いミリオンヒットのリズムは、いまでも多くのファンの耳にリフレインし続けている。