サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ミッキーロケット
【2018年 宝塚記念】過酷なペースを打ち破る強靭なロケット
セレクトセール(1歳)にて9200万円で落札されたミッキーロケット。若駒当時の状況について、音無秀孝調教師はこう振り返る。
「セールの上場時でも、整ったバランス。オーラを放っていた。実際に血統や値段にふさわしい奥深さも秘めていたね。2歳11月に手元へ来たころは、精神的に幼く、ソワソワと落ち着きがなくて。動きも地味だった。そんな未完成な段階でも、実戦向きの個性。堅実に走れたよ」
新馬(阪神の芝1800m)は2着だったが、直線の伸びはきらりと光った。年明けの京都で同距離を順当に勝ち上がり、梅花賞(2着)、つばき賞(2着)と惜敗。後方に置かれながら、スプリングSも5着に追い上げる。皐月賞(13着)へも駒を進めたが、ここで体力的にピークを越えてしまった。
春シーズンを早めに切り上げてリフレッシュ。期待通りにたくましくなった。函館の自己条件(芝2000m)を楽勝。松前特別(2着)に続き、HTB賞も出遅れたものの、コーナーから仕掛けて挽回し、豪快な差し切りを決める。
「なかなか勝ち切れなかったのは、不安定なゲートに原因があった。入念な練習を続け、ようやく枠内でじっとできるように。ようやく五分のスタートが身に付いてきたんだ」
メンバー中で最速の末脚(3ハロン34秒0)を爆発させ、神戸新聞杯を2着に健闘。内にもたれる面を見せ、菊花賞は5着止まりだったが、好位追走の上手な立ち回りを演じ、年明けの日経新春杯で初の重賞制覇を飾った。
だが、きつくハミを取りがちな傾向が強まり、京都記念(4着)、大阪杯(7着)、宝塚記念(6着)、天皇賞・秋(12着)と、なかなか力を出し切れない時期が続く。中日新聞杯で2着しながら、京都記念も7着。だが、天皇賞・春はスムーズに折り合え、4着まで脚を伸ばした。順当に復調の兆しを示す。
単勝7番人気(13・1倍)に甘んじていた宝塚記念だったが、スタートが決まり、好位のインをロスなく追走。直線手前では先頭に躍り出た。内ラチに寄せ、まっすぐに走らせることに成功。香港の強豪、ワーザーが猛追したが、驚異の粘りでクビ差だけ凌ぎ、ついに大仕事を成し遂げる。長くコンビを組んできた和田竜二騎手は、こう愛馬を称えた。
「もともと能力はG1級だと感じていましたが、イメージ通りに立ち回れたのは初めて。最初からロングスパートで振り切ろうと思っていました。それでも、厳しいペースでしたよ。最後まで脚色が鈍らなかったあたりはすごいの一言。決して恵まれた結果ではありません」
天皇賞・秋(5着)、有馬記念(4着)でも見せ場をつくったミッキーロケットだが、脚元の状態に配慮して、早めの引退が決まった。優駿スタリオンステーションで種牡馬入り。ミッキーゴージャス(愛知杯)を送り出し、注目を集めている。世界的に枝葉を広げる優秀な血筋だけに、さらなる大物の登場を期待したい。