サアカスの馬たち
~グレードレース メモランダム~
ミュゼスルタン
【2014年 新潟2歳ステークス】破格のポテンシャルを垣間見せた若き英雄
セレクトセール(1歳)にて7500万円の値が付いたミュゼスルタン。父は2年連続してリーディングサイアーに輝き、ディープインパクトの登場後も存在感を堅持したキングカメハメハである。母系も優秀。母アスクデピュティ(その父フレンチデピュティ)は5勝をマークした。祖母マルカコマチが京都牝馬特別を制している。
社台ファームでの育成時より優秀な身体能力を示していた。2歳6月、美浦へ。早速、全身を無駄なく使ったダイナミックな動きが評判になる。順調に態勢が整い、新潟の芝1600mで新馬勝ちを飾った。中団でじっくり脚をため、直線は抜群の瞬発力が炸裂。楽々と突き抜ける。騎乗した柴田善臣騎手も、豊かな将来性を感じ取っていた。
「馬っけを出したりして、まだ気性が若い。返し馬でも前の馬に乗っかかりそうに、大丈夫かなって気を遣ったよ。でも、想像以上にセンスがいい走り。スローな流れのインを上手に追走できた。決め手も相当。最後まで余力はたっぷりあり、完勝といえる内容だったもの。このまま伸びてほしいね」
中2週で新潟2歳Sに臨む。ここでも中団の馬群でぴたりと折り合いが付いた。直線で寄られても怯まず、進路が開けると一気に先頭へ。最後の最後にアヴニールマルシェが鋭く迫ってきたが、ハナ差だけ凌いで栄光のゴールに飛び込んだ。
「もっと楽に勝てたところ。3着の馬を楽に交わしてから、馬が遊んでしまって。間違いなく、素質はトップレベルだよ。今後もリズムを崩さないように導き、競馬を教えていければ」
と、普段は辛口のジョッキーも声を弾ませた。
ところが、レース中に左ヒザを骨折していたことが判明。翌春のスプリングS(7着)で復帰を果たしたものの、イレ込みが響いて出遅れ、実力を発揮できなかった。陣営はNHKマイルCでの汚名返上に燃え、渾身の仕上げを施す。馬もしっかり応え、懸命に脚を伸ばしたか、前残りの展開に泣き、3着が精一杯だった。
距離が延長されたダービーも6着を確保。しかし、秋につなげるはずの新潟記念(16着)で、今度は右ヒザを剥離骨折してしまう。初のダートを克服し、9か月半ぶりとなった青梅特別を快勝したが、結局、これがラストランとなる。翌春に右前を骨折したことで、引退が決った。
わずか7戦の競走生活。それでも、若き日の連勝劇だけで破格のポテンシャルは十分に示している。産駒は希少であり、種牡馬としては苦戦しているものの、ぜひ現役時代の無念を晴らす一発長打を期待したい。