サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイショウマンボ

【2013年 オークス】情熱を込めて舞った若き女王のダンス

 2歳11月に京都の芝1400mでデビュー勝ちを飾ったメイショウマンボ。単勝2・6倍の支持にふさわしい余裕の差し切りだった。

 父は天皇賞・春を制したスズカマンボ。サンビスタ(チャンピオンズC)を送り出しているように、サンデーサイレンスの後継ながらパワーやスタミナに優れた産駒が多い。母メイショウモモカ(その父グラスワンダー)は未勝利に終わったが、祖母のメイショウアヤメがオープンで2勝を挙げ、報知杯4歳牝馬特別でも2着している。

 阪神JFは出遅れが響き、10着に敗退。気性の激しさを露呈したことで、以降はすべて2番人気以下に甘んじる。それでも、紅梅Sで2着に追い上げ、こぶし賞に勝利。控えて末脚を爆発させるレーススタイルが板に付き、フィリーズレビューを鋭く突き抜けた。

 桜花賞(10着)は終始、外を回る苦しいかたち。9番人気まで評価を下げていたオークスだったが、距離への不安をあっさり払拭する。中団でスムーズに折り合い、最後まで力強い伸びが持続。後続を寄せ付けず、栄光のゴールに飛び込んだ。

 みごとに導いた武幸四郎騎手(現調教師)は、こう感激の涙を浮かべた。
「この勝利は格別。桜花賞ではうまく乗れず、直接、オーナーに頼み込み、オークスへは追加登録(別途200万円が必要)してもらった経緯があります。最高の恩返しができました。パドックでは危ないくらいにイレ込んでいて、ゲート裏もパニック状態。事前の作戦など吹き飛び、抑えるのに必死でした。抜群の反応でも、直線は後ろを振り返らず、夢中で追いましたよ。僕の方が慌てて、フォームがバラバラでしたね」

 秋緒戦のローズSを4着に惜敗しても、能力の絶対値に対するジョッキーの信頼はまったく揺るがなかった。秋華賞へ向け、ぐんぐん調子を上げていく。前半はじっくり脚を温存していたが、内回りコースを意識して、4コーナーから進出を開始。鮮やかにトップへと躍り出た。

「重馬場だった前走と違い、きれいな芝。自信を持って運べましたよ。持ち味をフルに発揮できましたから。こちらの期待通りに成長しています」

 牝馬2冠のみならず、エリザベス女王杯では古馬を完封する。生憎の降雨に見舞われたが、中団をリズム良く追走。馬場の良い外を回り、楽な手応えで抜け出しのタイミングを待てた。直線は楽々と突き抜け、2着とはコンマ2秒差の決定的な差を広げる。

「前走のデキをキープし、充実しています。いつもより前目のポジションを思い描いていて、その通りに運べましたね。上手に走ってくれ、直線も手応え十分。スローペースに加え、内目の枠(3番)でも、簡単に厳しい条件を跳ね除け、古馬相手に完勝できました。ほんとタフです」

 しかし、一気に頂点に登り詰めた反動は大きかった。翌春のヴィクトリアマイルを2着したものの、徐々に本来の闘志が失われていく。懸命の立て直しも実らず、4歳以降は無念の21連敗を喫した。

 7歳春の阪神牝馬S(14着)がラストラン。生まれ故郷の高昭牧場で繁殖入りした。競走生活の後半は全力を尽くしたとは思えず、活力を残しての引退である。

 初仔のメイショウイチヒメが幸先良く新馬勝ちを果たして以来、JRAで勝ち上がった産駒を送り出せていないが、いずれ大物が当場すると信じている。