サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

アルアイン

【2019年 大阪杯】奥深い才能が湧き出す高貴な泉

 サンデーサラブレッドクラブにて総額1億円で募集されたアルアイン。スーパーサイアーのディープインパクトが父、母ドバイマジェスティ(その父エッセンスオブドバイ)も米G1・BCフィリー&メアスプリントに勝ち、エクリプス賞最優秀短距離牝馬に選出されたトップホースである。繁殖としての実績も超一流といえ、同馬の全弟にシャフリヤール(ダービー、ドバイシーマクラシック)がいる。

 母から連想され、UAEの遺跡群であり、アラビア語で泉の意があるアルアインと命名された大器は、2歳10月、京都の芝1600mでデビュー。期待通りに新馬勝ちを飾った。

「1歳のころは線が細かったのに、成長力は目を見張るものがあり、翌夏のあたりで急激にたくましくなりましたよ。見た目にふさわしく体力が豊富。しっかり調教を消化できました。ただ、スタートが鈍く、ハミも取ろうとしない。半信半疑な部分も多かったですね。そんななか、ライアン(ムーア騎手)がきちんとレースを教え込み、闘争心を植え付けてくれた。それが、以降の成果へとつながりました」
 と、大器を手がけた池江泰寿調教師は入厩当時を振り返る。

 千両賞もあっさり連勝。シンザン記念は6着に敗れたが、直線の不利が響いたもの。積極的に2番手を進んだ毎日杯で、初のタイトル奪取がかなう。

「スピード色が濃いファミリーですし、胸前が発達した大型。胴も詰まっています。先入観にとらわれ、適性はマイルにあると考えていたのですが、毎日杯はタフなレース。イメージ以上の持久力を示し、最後まで伸び脚は衰えなかった。時計も優秀です。並外れたパワーや強靭な心肺機能を証明し、価値ある勝利となりましたね。これならば、皐月賞でも通用すると感じたんです」

 勢いに乗り、クラシックの一冠目へと駒を進める。好スタートを決めると、4番手で折り合いを付けた。3、4コーナーでは外から被され、いったん手応えが鈍ったが、直線ではエンジンが全開。みごとに馬群を割り、先頭に踊り出る。9番人気(単勝22・4倍)の低評価を覆し、過酷なサバイバル戦を押し切った。松山弘平騎手にG1の初勝利をプレゼントする。

「中2週でも、繊細なタイプではありません。飼い食いに心配はなく、仕上げやすかったですよ。トレセンではちょっとやんちゃなのですが、オン・オフがしっかり切り替わり、パドックや馬場入りでもどっしりし、落ち着きがありました。それでいて、内に秘めた覇気が伝わってきましたね。テンは少し速く、先行争いに巻き込まれそう。行きすぎるのが心配でしたが、2コーナーで収まり、いいポジションだと思いました。勝負どころでは死んだふり。内を突いたのが良かったですよ。ゴール前はペルシアンナイト(クビ差の2着、同じく池江調教師が管理)を見ていて、気付かなかったのですが、おっ、来ていると確認し直しました」

 ダービーは5着に敗退したが、極端に遅いラップが刻まれ、動くに動けなかった結果だった。秋シーズンはセントライト記念(2着)をステップに、菊花賞へ。過酷な不良馬場のなかで見せ場をつくりながら、最後に力尽きて7着だった。

 4歳シーズンは、京都記念(2着)、大阪杯(3着)、クイーンエリザベス2世C(5着)、天皇賞・秋(4着)、マイルCS(3着)など、善戦を重ねたものの、なかなか勝ち切れない。

 翌春の大阪杯は、皐月賞と同じ9番人気(単勝22・2倍)。こんなときほど新たな才能が湧き出すのがアルアインの魅力である。好位の内で折り合いを付け、直線は狭いスペースを突いた。粘るキセキ、懸命に追うワグネリアンとクビ+クビ差という大接戦を凌ぎ切り、2年ぶりとなる栄光をつかむ。今度は北村友一騎手を初のG1制覇へと導いた。殊勲のジョッキーは、こう至上の喜びを噛み締める。

「好枠(3番)を引き、展開も読みやすく、理想的なレースができました。とにかく馬の気分を損ねないよう専念。4コーナーまで行きっぷりが良かったですし、追ってからもしっかり反応。坂を上がってソラを使いかけたんですが、気持ちに配慮し、あえてステッキを使わずに叱咤しました。なんとか勝ち切れ、それは感激しましたよ。ブリンカー着用が2戦目で慣れもあったでしょうし、良いタイミングと条件が重なった結果です」

 宝塚記念は4着に健闘したものの、天皇賞・秋(14着)、マイルCS(16着)、有馬記念(11着)と振るわず、引退が決定した。ブリーダーズスタリオンステーションにて種牡馬入り。初年度産駒よりコスモキュランダ(弥生賞ディープ記念)を輩出した。破格のスケールを受け継いだ新たなスターの誕生が楽しみでならない。