サアカスの馬たち 
~グレードレース メモランダム~

メイショウスザンナ

【2015年 クイーンステークス】深い愛情に育まれた遅咲きのシンデレラ

 JRAブリーズアップセールにて900万円で落札されたメイショウスザンナ。芝のG1を4勝しただけでなく、フェブラリーSなど、砂路線でも6つのタイトルに輝いたアグネスデジタルの産駒である。管理した高橋義忠調教師は、こう感慨深げに振り返る。

「巡り会いに感謝するしかないですよ。開業した直後に入厩。初めてクラシックの舞台を踏めたうえ、息長く走ってくれ、重賞の喜びも運んでくれた。いろいろなことを学びました」

 オーナー(松本好雄氏の子息にあたる松本好隆氏)にとってもゆかりの血筋。母グリーンオリーヴ(その父サンデーサイレンス)は1勝したのみであり、繁殖成績も地味だが、フェブラリーHをはじめ10勝したメイショウホムラ(義忠師の父、高橋成忠調教師が管理)の半妹にあたる。

「とても素直で、仕上げやすいタイプ。きちんと育成されたことが、早期からの活躍につながりました。ただし、いかにもひ弱な雰囲気でしたし、セールではそう目立たなかった。出世のスピードは想像以上でしたね」

 2歳の7月、京都でデビューし、ダート1200mを2戦。6着、9着に終わる。夏場のリフレッシュと、芝(京都の1400m)に目を向けたことで一変。スローペースを跳ね除け、鋭く差し切りを決めた。手綱が切れるアクシデントに見舞われた白菊賞(17着)は参考外。3着、2着と着順を上げる。

「だいぶ体力が強化されてきたとはいえ、しばらくはゲートの出など、改善すべき課題も付きまといました。それなのに、なかなか崩れない。イメージ以上の勝負根性も秘めていました。直線が長いコース向きと見て、クイーンCを狙ったのに除外。翌週のセントポーリア賞に回ったのですが、牡馬相手に勝ち切ってしまった。驚きましたよ。夢が大きく広がりました」

 フラワーCも2着。桜花賞(5着)、オークス(9着)へも駒を進める。ところが、きついローテーションでG1に臨んだ反動は大きく、紫苑S(10着)に続き、秋華賞も18着に終わった。4歳シーズンは全敗。5歳になって中山の芝1600mに勝ち、さらに距離を縮めたテレビユー福島賞を豪快に差し切ったものの、オープンに復帰後もなかなか走りが安定しなかった。

「ずいぶん幅が出て、肉体的には成長。それなのに、すっかり本来の前向きさを失ってしまい、自らやめてしまうんです。レース直後には息が入り、全力を尽くしていないことは明らか。根気強く、精神面に配慮した調教メニューを繰り返しました」

 そして、クイーンSではついに連敗にピリオドを打つ。馬任せに後方で脚をため、直線で一気にエネルギーを爆発させた。馬群をさばいて鋭く伸び、きっちりと抜け出す。

「着順が上下するなかでも、ブリンカーを着用した効果が表れ、ターコイズS(3着)や福島牝馬S(3着)で立ち直りの兆しを垣間見せていましたからね。ようやく本気を出してくれ、非凡な能力を証明。もどかしい走りが続いていたぶん、感動しました」

 馬具を工夫した効果も薄れ、以降は未勝利だったが、7歳にして中山牝馬Sを3着に健闘。ラストラン(府中牝馬Sを9着)まで丁寧に仕上げられ、健康体を保った。

 豊富なキャリアを重ねた反面、活力を残して繁殖入り。母の名を高める産駒の誕生を待っている。